柔道・松本薫を野獣から普通の女の子に変えた1500日

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柔道女子57キロ級の松本薫(28)

 4年に一度の晴れ舞台に合わせ、コンディションをピークへと持っていくのは至難の業。まして“野獣”であり続けねばならないのだから――。連覇の夢が潰え、リオ五輪銅メダルに終わった柔道女子57キロ級の松本薫(かおり)(28)は、1500日間で“普通の女の子”に戻ってしまったという。

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 所属する「ベネシード」柔道部の津澤寿志監督は、

「松本の柔道は、たとえ綺麗に一本が取れなくても、引かずに相手を攻め立てて圧倒し、優勢勝ちを取るスタイル。それでも金を取ったロンドンでは一度も一本勝ちできなかったため、帰国後は一本を取る柔道へと変えようとしたのです」

 紆余曲折の末、昨年には従来の“攻撃スタイル”に戻したといい、

「五輪のひと月ほど前にようやく復調し、万全の状態で試合を迎えられました」(同)

 が、準決勝では開始早々、背負い投げで一本負けを喫してしまう。全日本柔道連盟女子強化委員の山口香氏は、

「加齢による反応の遅れもあったでしょうが、やはりこの4年間の気持ちの変化は大きかったと思います」

 と指摘するのだ。

「ロンドンの時には確かに“ギラギラ感”があった。今回は目の前に獲物がぶら下がっていても『もうお腹いっぱい』という状態だったと思います。自らを奮い立たせ、お馴染みの形相で試合に臨みましたが、それは湧き上がるものではなく“作られた野獣”だったのではないでしょうか」

 柔道陣で連覇が懸かっていたのは、松本だけだった。

「野獣を演じなくてはいけない重圧もあったでしょう。だから表彰台で見せた表情は、私には『ようやく肩の荷が下りた』と映りました。この4年間は、自分との戦いだったのだと思います」

 闘志のコントロールとは、かように難しいのだ。

「ワイド特集 やがて哀しき『リオ五輪』」より

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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