出光創業家、4億円を投じて昭和シェル株を取得する“奇計”

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 岐阜県多治見市では、8月8日に今夏最高の39・7度を記録した。うだるような猛暑日が続いているが、“熱さ”ではこちらも負けてはいない。昨年7月に合意した昭和シェル石油との経営統合を巡り、出光興産の経営陣とそれに異を唱える創業家との攻防がヒートアップしている。

統合すれば社名変更も?

 元衆院議員で、創業家代理人の浜田卓二郎弁護士(74)は8月3日、出光昭介名誉会長(89)が私財約4億円を投じて、昭和シェルの発行済株式0・1%にあたる40万株を取得したと発表した。出光興産ではなく、昭和シェル株を取得したのはなぜか。目下、出光興産はロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)から昭和シェルの発行済み株式33・24%を取得する予定だ。企業のM&Aに詳しい牛島信弁護士によれば、

「企業買収では発行済株式の3分の1超を取得する場合、相対ではなくTOBを実施しなければならないルールがあります」

 TOBが、株式公開買い付けを指すのはご存じの通り。創業家が昭和シェル株を0・1%取得したことで3分の1を超えてしまう。出光大株主である昭介氏の株取得は出光側の取得と同一とみなされるので、TOBを実施しなければならない公算が高い。石油業界担当のアナリストの解説では、

「RDSは出光興産に昭和シェル株を1株1350円、総額約1691億円で譲渡することに合意している。譲渡実行は来月中なので、RDSが契約変更をそう易々と受け入れるとは思えません」

 出光創業家が0・1%の株取得を発表した8月3日、昭和シェル株は939円だった。その後もジリジリと値を下げ続けて、12日には81円安の858円で取引を終えている。

■経産省主導の再編

 出光興産とRDSとの間で合意した昭和シェル株の買い取り価格と、現在の株価とでは大きな差がある。創業家以外の株主からも批判の声が出始めているので、いっそTOBで昭和シェルを完全子会社化してしまえばいいのではないか。

「出光興産と昭和シェルは対等統合を標榜しています。TOBによる株取得では、昭和シェルが出光興産の子会社化するので反発は必至。また、TOBを実施して、50%の株を保有するにはRDSからの買い取り分を除いて最低でも590億円必要で、統合効果500億円を大幅に超えてしまう。そこで両社トップは、取得比率を引き下げて創業家に対抗する方針を決定しました」(先のアナリスト)

 さらにこんな問題も、

「経営陣は、来年3月末までにこの争いに終止符を打たなければならないのです」

 こう指摘するのは、全国紙の経済部デスクだ。

「石油業界の再編を主導しているのは経産省。7年前に成立したエネルギー供給構造高度化法、通称“高度化法”に基づいて石油元売り各社に原油処理能力を最大で約1割削減することを義務付けつつ、経営統合を促しています。実は、来年3月末にその高度化法が“締切”を迎えるのです。期限内に統合を固めなければ、経産省が課した“宿題”を果たすのは難しいですね」

 で、最後に笑うのは創業家か、それとも経営陣か。

「昭介さんは、創業家を取りまとめて議決権の共同行使を決めました。出光家は単なる創業家ではなく、21・18%を保有する大株主。他の株主の目には、経産省のお墨付きを得た経営陣が大株主を蔑ろにしているように映っている。昭介さんに賛同する株主は少なくないので、創業家が優勢ではないでしょうか」(同)

 出光興産は年内に臨時株主総会を開き、昭和シェルとの経営統合を決議する。当分、熱いバトルが続く。

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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