〈生前退位 私の考え〉「ヴァイニング夫人」の教え――明石元紹(ご学友)

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 陛下は子どもの頃から、視野の広さや物を見る高さが違っていたように思います。人はどうしても自分の立場にしがみついてしまうものですが、陛下には生まれながらに背負った宿命がある。だからこそ陛下には私利私欲が全くありませんでした。小さな頃というのは、誰しも自己中心的になりがちですが、陛下は「人のために」という視点でいらっしゃいました。

 報じられている通り、陛下は全ての公務に全力で取り組んでおられます。昔から真面目で、いいかげんなことが嫌いで、何に対しても正面から向き合うところがありました。

 陛下はお言葉の原稿も全てご自身でお考えになります。こうした「自分の意志で動く」という陛下の根底には、少年時代、陛下の家庭教師を務めたヴァイニング夫人の教えがあるのだと思います。ヴァイニング夫人の教えは、端的に言うと「人はロボットになってはならない」ということです。人に言われてから動くのは人間ではない。自分の意志を持ち、それにしたがって行動する。その上で「天皇を演じ」なければならないということです。この教えを、陛下はいまでも実践されているのだと思います。用意されたものに従っているだけではいけない、と。今回のことも、ご自分のためではなく、国のために判断して、天皇としてあるべき姿を務められないのであれば国民に申し訳ないと判断されたのでしょう。

 今年の3月には、学習院初等科の同級生だけのクラス会が催され、陛下もご出席されました。参加者は20人くらいでしたが、その中では陛下が一番しっかりしていたのではないでしょうか。陛下は大学の同窓会などにもご出席されますが、そういう席ではどうしても陛下のところに挨拶の列ができてしまい、公務の延長のようになってしまいがちです。3月のクラス会の際は、3つ用意したテーブルに陛下の席をそれぞれ準備し、皆と話をしていただきました。

 これまで、特に最近、陛下と接してきた中でも、陛下に退位のお考えがあることは感じませんでした。そこまで客観的にご自身を見ていらっしゃったのか。そこまで責任感が強くあられたのか、と改めて感じております。もし報じられているように、生前退位のお気持ちがあるとすれば、それは大変良いことだと思います。陛下のご負担を減らし、皇太子さまに引き継がれるのは大変合理的なことだと思いますから。

 皇太子さまも、陛下が即位した年齢を既に超えておられます。「摂政をおけばいい」という意見もあるようですが、陛下としては、ハッキリとしない形は嫌で、退位、譲位という形を望まれているのかもしれません。

「特集 天皇陛下『生前退位』 有識者4人に訊いた『私の考え』」より

明石元紹(あかし・もとつぐ)
1934年生まれ。天皇陛下のご学友(女子学習院幼稚園から学習院高等科卒業まで)の1人。

週刊新潮 2016年7月28日号掲載

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