なぜ今頃発表? ブレア政権を断罪するイラク戦争レポート

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 EU離脱の国民投票結果に激震収まらぬ英国で6日、発表された通称「チルコット・レポート」。2003年、ジョージ・W・ブッシュ米大統領とトニー・ブレア英首相が主導し開戦したイラク戦争。その是非を検証する報告書がなぜ今頃?

トニー・ブレアとジョージ・W・ブッシュ

 英国在住の国際ジャーナリスト、木村正人氏は言う。

「元官僚のサー・チルコット委員長率いる独立調査委員会の報告書は、昨年の総選挙前には完成していました。が、選挙に差し障りがあるとしてキャメロン首相により発表が延期され、国民投票前もまずいということでこの時期になったのです」

戦争と平和』の4倍近い、260万字に及ぶ膨大なレポートは当時のブレア労働党政権の開戦判断と情報戦略の失敗を厳しく断罪する内容。保守党のキャメロン首相が発表を遅らせたのは、

「英国の政治支配層全体、ひいては現政権に影響があると見たのでしょう」(同)

 英軍のイラク全面撤退後、開戦当時の閣僚や外交官、諜報組織幹部など150人以上から聴取、15万点の資料を精査したこの調査は7年の歳月と総額1000万ポンド(約13億円)を要したが、大きな意味があるという。

「イラク戦争の影響は深甚です。“ブッシュのプードル”とまで呼ばれながらも一貫して米国追従の姿勢を取ったブレアは179人の英兵を戦死させ、今の“イスラム国”や難民問題につながる中東の混乱を生む片棒を担いだ。英国が米国と距離を取るようになったのも、今回の国民投票に影響を与えた政治支配層への不信も、この戦争に遠因があるといってよいのです」(同)

 トラウマに等しい苦い過去でも、徹底的に向き合い、総括せねば前に進まぬ英国人――その姿勢は見習わねばなるまい。

週刊新潮 2016年7月21日参院選増大号掲載

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