稲川会幹部も逮捕 主婦やフリーターが“運び屋”になる金密輸

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 ヤクザもすなる密輸といふものを、女もしてみむとてするなり――。などと書けば、『土佐日記』の著者・紀貫之は顔をしかめるかもしれないが、このところ、日記ならぬ“金の密輸”が主婦やフリーターに大流行しているという。素人まで手を出すようになった、その“仕組み”とは――。

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運び屋に向いているのは圧倒的に女性。シリコンを巻けば“妊婦”を装える。(※イメージ)

 まずは“玄人”の手口から、金密輸で儲ける最新のカラクリを解説しよう。

 警視庁は今月8日、指定暴力団稲川会系の幹部ら6人を関税法違反などの容疑で逮捕。実に110キロを超える金の延べ棒を、プライベートジェットを使ってマカオから密輸しようとした疑いが持たれている。

 社会部記者によれば、

「海外から一定限度以上の金を持ち込むには税関に申告し、消費税分を支払わなければなりません。今回の事件で持ち込まれたのはおよそ5億円に相当する量なので、本来はその8%に当たる約4000万円を支払う必要がある。ただ、税関を通さずに国内で売却すれば、消費税分が丸々手に入ることになるわけです」

 かつて、その筋の人々の間では、シノギで儲けたカネをマネーロンダリングするために金を用いるのが一般的だった。だが最近は、消費税のかからない外国で購入した金を日本で売り払い、利ざやを稼ぐ手法が流行っているという。

「4月に消費税が8%に上がった、2014年7月から15年6月の金密輸による処分件数は、前年比22倍の177件に急増。その後も増加傾向に歯どめがかかりません」(同)

 その背景には、暴力団以外にも密輸が蔓延している現状がある。

「“運び屋”は投資セミナーで声を掛けたり、新聞にニセの求人広告を出して勧誘した素人ばかり。派遣社員や主婦、フリーターや大学生も少なくないですね」

 事も無げにそう語るのは、最近まで密輸グループを仕切っていた男性である。 

「金は覚醒剤と違って禁制品ではないので、素人が罪悪感を抱くこともありません。そうして集めた運び屋を連れて香港などに渡航し、買付け役が現地のバイヤーから金を購入する。その後、運び屋ひとりにつき1キロの延べ棒を2~4本ほど持たせて帰国します」(同)

■債務処理に見せかけて

 相場に換算すると、この延べ棒1本に約470万円の価値があるが、手荷物に紛れ込ませば出国時に咎められることはまずないという。一方、問題なのは日本の空港の税関だ。

「過去に密輸で御用となった人はもちろんですが、挙動不審だったりしても税関で呼び止められて手荷物をチェックされます。それを掻い潜るため、機内のトイレなどで、延べ棒を体にガムテープで巻きつけておく。その上にシリコン製の人工皮膚を被せてカモフラージュするのです。運び屋に向いているのは圧倒的に女性。小さな延べ棒ならブラジャーに挟めるし、シリコンを巻けば“妊婦”を装える。男性の税関職員からボディチェックされづらいという利点もあります」(同)

 こうして持ち込まれた金塊をカネに換えるには、

「負債を抱えた企業に手数料を払い、債務処理に見せかけて売却する。そうすれば法人税もかかりませんし、我々が買取業者と取引しないので足もつかない。経費や運び屋のギャラなどを除くと、1キロの延べ棒1本で20万~25万円の利益になりました。ただ、最近は税関の監視が厳しくなったので摘発されるケースも増えると思います」(同)

 金はサビないことで知られるが、それを密輸して逮捕されては“身から出たサビ”という他ない。

「ワイド特集 身から出たサビ」より

週刊新潮 2016年6月23日号掲載

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