ゲイクラブ射殺事件が大統領選の“地雷”に…トランプ、ヒラリー共に発言が炎上

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オマル・マティーン

 過激派組織「イスラム国」が世界各地でのテロを呼びかけたのは6月6日から約1カ月続く断食月(ラマダン)期間。まさにその時期、米国史上最悪の銃乱射事件は起きた。

 6月12日の午前2時過ぎ、フロリダ州オーランドにある人気のゲイ向けナイトクラブ〈パルス〉のフロアは人で溢れていた。ダンス音楽が鳴り響く暗い店内で酒を楽しみ、踊る客は300人以上。そこにアフガン移民2世のオマル・マティーン(29)が現れ、半自動ライフル銃AR-15を乱射したのだ。“1曲分も続いた”との証言も残る銃撃による死者は49人、負傷者53人――銃乱射事件が頻発するアメリカでも最多の犠牲者数だ。

 しかも衝撃的だったのは、オマルが“イスラム国に忠誠を誓っている”と警察に伝えていたことだ。イスラム国も事件後、犯行声明を発表。

「ただ、直接の指示があったかは不明です。オマルは離婚後、宗教に傾倒、メッカに巡礼したと言う友人がいる一方、事件と宗教は関係ないと言う人も。同性愛嫌いのオマルは、自分の3歳の息子の前でキスするゲイたちに“オレの息子の目の前でそんなことしやがって”と激怒したとオマルの父親は証言しています」(現地記者)

 その父親は父親で“アフガニスタン大統領”を名乗り、YouTubeに何十もの演説をアップする人物。オマルの離婚理由は妻への深刻なDVだし、なかなか一筋縄でいかぬ家庭環境だ。

 米国の極右テロ研究の経験がある軍事ジャーナリスト、黒井文太郎氏は言う。

「米国では社会に馴染めない人間が通り魔的に事件を起こすケースが非常に多い。そんな人物が“イスラム国”に触発され、こうした“ローンウルフ型”テロを起こす危険性は以前から指摘されていました。ただ、阻止が困難な上、世界的にも増加傾向にあります」

■イスラム国は滅べども

現場の〈パルス〉

「組織的なテロも増加しています」

 とは、現代イスラム研究センターの宮田律氏だ。

 確かに、イスラム国が断食月のテロを呼びかけた2日後には死者140人に及ぶ7件の爆弾テロがシリアで発生、7日にはトルコのイスタンブールで11人が犠牲となり、9日にはイラクのバグダッドとその近郊で死者31人、11日にはシリア・ダマスカス近郊で20人以上が死亡している。

 テロリストの流入に神経を尖らせた米当局と英外務省は、フランスで開催中のサッカー欧州選手権「ユーロ2016」がテロの標的になる可能性があると警告、200万人の観客が押し寄せるフランスは10万人規模の警備体制を敷いている。

「“首都”ラッカを米露の後押しするクルド人部隊やアサド政府軍などに攻囲され、イスラム国は劣勢。縮小傾向にありますが、その分、支配地域外のテロが増加したとも考えられます」(同)

 拡散するテロの脅威は米大統領選も揺さぶっている。

 外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は指摘する。

「今回の事件は銃規制の是非を改めて突きつけた。規制派の民主・ヒラリーと、規制反対派の共和・トランプの反応次第では対決の分水嶺になるかもしれません」

 支持率下降気味だったトランプは事件後、ツイッターが炎上。イスラム教徒入国禁止を訴えてきた“先見の明”を讃えられ、それに感謝の念を表明したトランプは、死者に非礼だと叩かれたのだ。一方、〈宗教全体を悪者扱いするのは危険〉と発言したヒラリーには〈国家の安全は二の次か〉といった論難が降り注いでいる。

 誤って踏んでしまえば大統領への道を断たれる“地雷”となったのだ。

週刊新潮 2016年6月23日号掲載

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