世界から失笑を買った安倍総理の「リーマン・ショック前」 黒幕は“右腕”の総理秘書官

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安倍総理

 5月26日の「G7伊勢志摩サミット」初日、安倍総理は複数枚のペーパーに書かれた指標を各国首脳に示した。2008年のリーマン・ショック時と現在の数値の落ち込みの類似を指摘することで、今が深刻な経済状況であることを訴えるのがその狙いだが、出席メンバーからは異論が噴出。実際は、“リーマン・ショック前夜”であることを匂わせ、消費増税延期をしたい総理サイドが、都合のいいようデータを切り取った経済指数にすぎなかった。「データを見て、各国の記者が集まる国際メディアセンターでは失笑が起きていました。EUの記者などは“安倍総理はサミットを私物化しているんじゃないのか”と呆れていた」(政治部記者)優秀な経済官僚やアナリストが集まる霞が関で、こんなお粗末なペーパーしか作れなかったのは、なぜなのか。

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 不思議なのは、伊勢志摩サミットに関わった官僚たちの口が、ペーパーのことになると一様に重くなってしまうことだ。何かを怖がっているようでもある。

 サミット終了後の5月27日、事態を重く見た民進党は「『リーマン・ショック前夜』検証チーム」の会合を開き、関係省庁の担当者を呼びつけている。そこに出席した外務省経済局の首席事務官はしどろもどろ。

 最終的に同局の政策課がペーパーを取りまとめたことまでは認めたものの、

「サミットの準備に関わる関係省庁が協議相談しながら作ったもので……」

 と、要領を得ないのだ。また、内閣府の担当者も「事前に見たことがない」と漏らしている。各省庁ともバツが悪いのか、ペーパーの内容をホームページにも載せていない。

「それもそのはずです。5月23日に内閣府が発表した『月例経済報告』で“(世界経済は)全体として緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される”と楽観的なことを書いたばかり。その3日後に安倍総理がちゃぶ台をひっくり返したのだから、内心忸怩たるものがあるのでしょう」(政治部記者)

■安倍総理の“右腕”

 だが、もうひとつ、官僚たちがペーパーのことを語りたがらないのは、黒幕の存在がある。

 総理官邸を取材する記者が言う。

「サミットで配布されたペーパーは、外務省経済局で『首脳宣言』を作成したのと同じメンバーで作られました。通常、サミットは外務省が事務方となり、“シェルパ”と呼ばれる外務審議官の下、3~4人の外務官僚が中心になって『首脳宣言』をまとめる。今回のシェルパは長嶺安政審議官ですが、イレギュラーだったのは、最初から総理秘書官の今井尚哉(たかや)氏が関わっていたことでした」

 今井氏といえば、経産省出身で第1次安倍政権時代からの総理秘書官。安倍総理の“右腕”とも言われ、スケジュールを一手に握っていることから、大物政治家も一目置いている。一方で今井氏の機嫌を損ねると、面会を取り次いでもらえないとの悪評も多い。安倍総理の権力をカサに着ているとも。

「今回、サミットにあたって、安倍総理の意向を汲んだ今井秘書官が5月初旬から限られたメンバーに作成を指示していたのです。外務省と財務省にも伝えられていますが、すでに骨子が出来上がってから。財務省では主計局がペーパーの存在を察知し、増税延期になるかも知れないと危機感を募らせていましたが、主税局の動きが鈍かった。財務省幹部の中にはテレビニュースで知ったという人もいるほどです」(同)

 経済ジャーナリストの福山清人氏も言うのだ。

「もともと安倍総理は消費税増税について財務省を信用していません。2014年に5%から8%に上げたときも、景気は回復しているから経済への影響はほとんどないと財務省サイドは説明していた。しかし、消費が冷え込みインフレ目標を達成できなかったのはご存じのとおり。財務省に騙されたと思っている安倍総理や彼の側近がサミットの資料作成にタッチさせるはずがありません」

 そんな経緯で作られたサミットのペーパー、今や霞が関では、やっかみ半分から“今井ペーパー”と呼ばれている。そこで、今井秘書官に真相を聞くべく、自宅前に出てきたところを直撃すると、

「急いでいるので!」

 と黒塗りのハイヤーで脱兎のごとく去って行くのである。

■悪しき前例を作った

 さて、サミットを内政に利用したと批判されてまで消費税引き上げ延期を決めた安倍総理。内閣支持率が55・4%(産経新聞)まで上昇してひと安心だが、消費税増税のスケジュールを2年半も先に設定すると何が待っているのだろうか。

「当面は増税再延期の効果で目先の景気は支えることが出来ても、財政面でさらなるリスクの増大は間違いありません。政府は2020年までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を掲げていますが、この目標達成が非常に難しくなったことは間違いない。そもそも、プライマリーバランスの均衡は年3%成長で名目GDPが600兆円に増えて初めて可能になる計算なのです。さらに心配なのは、今回の先送りで引き上げるタイミングを逃してしまう可能性が出てきた。いくらでも延期の理由をつけられるという悪しき前例を作ってしまったわけですから」(福山氏)

 再増税が予定されているのは2019年10月。その前年の9月には自民党総裁の任期もやってくる。サプライズがなければ、総理の椅子に座っているのは安倍総理ではない。

 その時、また奇妙な「指数」が登場して増税延期にならない保証はない。

「特集 財務省は蚊帳の外! 『安倍総理』の口先『リーマン・ショック前夜』の奇妙な指数」より

週刊新潮 2016年6月9日号掲載

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