元プロ野球選手・角盈男「ヌードを見ても興味がわかない。袋とじもそのまま」 がんに打ち克った5人の著名人(3)

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 がん罹患の告白が奏功した人がいる。巨人、日ハム、ヤクルトで主にリリーフとして活躍した角盈男さん(59)。

 角さんが患ったのは前立腺がん。2年前、後援者に誘われて1泊2日の人間ドックを受けたところ見つかった。中等度のがんだった。

「告知を受けたときは“ふーん”というピンとこない感じと、“死が隣に来たな”という感じがあったかな。でもね、ピンチのときにばかり登板していたピッチャーの習性なのか、すぐに対策を考えた。現役時代、打たれて失敗を引きずるとまた打たれた。肝心なのは気持ちを切り替えて対策を考え、次に進むことです」

 持ち前の“危機管理能力”から、同じ病気の人に参考になればと、自身のブログでがんを公表する。すると、経営するバーの常連客から重粒子線治療を勧められた。

 確かに前立腺がんには効果的な方法である。しかしながら、照射前、男性ホルモン値を下げるために使う薬の副作用が辛かったのだ。

「イライラしたり、食欲がぐっと旺盛になったりしました」

 さらに性欲についても、

「へんな話、週刊誌のヌードグラビアをみても、まったく興味がわかない。袋とじもそのままで、へへへ。俺は男じゃないんだと」

 重粒子線の治療期間中は禁酒しなければならないのも、バーへ毎日出勤する身としては悩ましい問題だ。

 そんなとき、他の客から「トモセラピー」という最新の放射線療法はどうかと打診された。

 一般的な放射線治療では、患部以外の正常細胞にも放射線が当たってしまうが、トモセラピーは、コンピューター制御でがんの形状に合わせて放射線の強さを調節する。さまざまな角度からがんに照射するため、がん細胞だけを狙い撃ちすることができる。ホルモン治療の必要もなく、治療期間中の飲酒も問題ないという。

 断る理由などない。

 治療は1回30分ほど寝ているだけで約15回、1カ月で終了。結果、半年後のPSA値(前立腺がんのマーカー)は、0・01と正常値に落ち着いたのである。

 昨年受けた人間ドックでは、担当医が“完治”と言ってしまうほど。男性ホルモン値も上昇し、目下、グラビアにも正常に反応するという。

 仕事柄、シャンペンとワインを1日各1本ほど空けてはいるが、食事療法と運動を欠かさない。加えてほぼ毎日、1万歩の歩行を心がけている。がんを患い、他者や時間をより大切にするようになった角さん。

「(周辺には)治療ではずいぶん助けられましたからね。そして、やるのなら心から楽しむ。嫌々だったらやらない。僕のモットーは“いま、全力”なんで」

「特別読物 がんに打ち克った5人の著名人 Part3――西所正道(ノンフィクション・ライター)」より

角盈男
1956年生まれ。元プロ野球選手、タレント。読売巨人軍などで活躍。今年11月開催の「台湾OB選抜 VS 巨人軍OB選抜 チャリティー試合」に出場予定

西所正道(にしどころ・まさみち)
1961年奈良県生まれ。著書に『五輪の十字架』『「上海東亜同文書院」風雲録』『そのツラさは、病気です』、近著に、『絵描き 中島潔 地獄絵一〇〇〇日』がある

週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号掲載

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