シャープはどこで間違えたのか? グーグルやアップルになれた「もうひとつの未来」

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 泳ぐのを止めたら死んでしまうのはマグロだけではない。企業も同じだ。現状に安住し、足を止めたら、いずれ命脈は尽きてしまう。日本企業が海外勢に押し負けるようになった大きな理由も、まさにそこにある。成功体験に縛られ、官僚化した組織では、自らを作り変え、新たな命を吹き込むようなイノベーションが生まれにくくなるからだ。

 たとえば、シャープがそうだった。世界に冠たる液晶帝国を築き上げたところで足を止め、「オンリー・ワン経営」「ブラックボックス戦略」の名の下に技術を囲い込んだ結果、競争のダイナミズムを失い、失速。ついには、台湾の鴻海精密工業に身売りするまで傾いてしまった。

シャーペン、電子レンジ、電卓……「日本初」を連発

 シャープは本来、進取の精神に富んだ企業である。創業者、早川徳次の口癖は「真似される商品を作れ」。その精神の下、シャープペンシルやラジオ、テレビ、電子レンジ、電卓などを、いちはやく商品化し、市場を作り出していった。柳の下で2匹目を狙う商売がうまい会社は他にいくらでもいたが、シャープは際立ってイノベーティブな会社だった。真似されても、常にその先にいた。シャープ本来の精神を体現した伝説の技術者が、技術トップを務めた「ロケット・ササキ」こと佐々木正である。

「オープンイノベーションの精神こそが人類をより良き未来に導く、というのが佐々木さんの信念。人類のための技術という大きな視点です。だから教えを請われたら拒みませんでした」

 と言うのは、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』の著者、大西康之さん。

「技術を抱え込んで、自分たちだけがいい思いをできる期間などたかが知れている。だから、他社とフェアに情報のやりとりをしながら新しい価値を生み出す『共創』が大事。それが佐々木さんの信念でした。技術を教えたら相手は追いついてくる。決して足を止めず、相手が追いついてくるときにはその先に行っていろ、というスタンスです」

「電卓戦争」と呼ばれる開発競争でシャープの後塵を拝し続けた松下幸之助は、佐々木に教えを乞うた。このとき警戒心をあらわに反対する役員たちの前で社長の早川徳次が口にした言葉がふるっている。「教えてあげなさい。それで潰れるシャープではない」。経営者の度量を感じさせるエピソードではないか。

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