「自民は民主の体たらくから学ぶべきだった」活かされなかった過去の大震災の教訓

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 4月末の時点で、熊本県内に避難所はおよそ600カ所、6万人余りの被災者が身を寄せていた。車中泊など屋外避難者を含めれば8万人以上だが、支援物資の過不足、いわゆる避難所間の「格差」が露わになっていたのだ。

被災地へ送られた支援物資

 こうした状況は、ひとえに“過去の軽視”が引き起こしたのだと断じるのは、危機管理コンサルタントの田中辰巳氏である。

「支援物資配送の停滞などは、阪神淡路大震災や東日本大震災でもみられましたが、そうした事例から全く学ばなかったことが、同じ轍を踏む結果になっています。政府は『プッシュ型支援』と銘打ってトップダウンで被災地に物資を届けていますが、一方的に送りつけているだけで、先立つべき仕組み作りができていません。松本副大臣の“おにぎり発言”も、元を正せばここに原因があるのです」

 と、現地の対策本部長でありながら、政府とのテレビ会議で〈食べるものがないので戦えない〉と、おにぎりの差し入れを要求し、事実上の更迭となった松本文明副大臣を例に挙げる。さらに企業を例に挙げれば、

「ある県で災害が起きて生産や販売がストップした場合、被災地を囲い込むように隣接する他府県などに問題解決の拠点を作ります。これを『ブロック』といい、一刻も早い業務再開をサポートします。今回に当てはめると、福岡や大分、宮崎、鹿児島が支援拠点となる。4県が県境付近にそれぞれ拠点を作った上で、例えば益城町(ましきまち)は福岡担当といった形で熊本県内の地域を割り振って、仕分けボランティアの配置や各県の医療機関への被災者受け入れを行えばよいのです」(同)

 食料輸送もブロック分けすれば、滞留や過不足のバラつきといった事態は避けられたという。そのためには、

「当該県選出の国会議員が中心となってプロジェクトチームを作り、地元に帰って指揮をとるべきです。彼らには土地鑑とともに県警や県会議員などの人脈もあるので、スムーズに地域に入り込んで支援にあたれます。しかし、政府はこれまでその仕組み作りを怠ってきました。東日本大震災時に野党だった自民党は、民主党政権の対応を厳しく批判しましたが、それに学んで次に備えてこなかった。危機管理とは疑似体験に他なりません。対岸の火事だと思わずに、民主の体たらくから学ぶべきでした」(同)

 というのだ。防災科学技術研究所の佐藤隆雄・客員研究員も、こう付言する。

「物資が役所に届くだけで、そこから各避難所への配達態勢が整っていません。阪神淡路大震災の時、長田区にある真野地区では、市役所から避難所ではなく、まず拠点となった小学校に物資を持っていきました。皆さんが自分たちの町を熟知していて、『あそこのお婆さんは避難所にいないから自宅にいるはず』という情報が正確に入っており、適切な優先順位のもとで物資が行き渡った。そういう大切な教訓が、今回は生かされていません」

■中越地震から学ばれなかった教訓

車中泊する被災者

“眠れる教訓”はまだある。

「50代女性がエコノミークラス症候群によって亡くなりましたが、明らかな人災です。実際にそうなるまで、誰も注意喚起をしなかった。かつて04年の中越地震でも余震が多く、車中泊の方が大勢おり、そうした症状も多くみられましたが、今回は車中泊が多いとわかった時点で政府は大々的に注意を呼びかけるべきでした。予防には水分補給が重要。飲み水の供給にバラつきがあることとも関連があります」(同)

 なおのこと、適切な供給が望まれたのである。

「特集 『安倍内閣』熊本支援の失態失策大失敗」より

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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