誤報との声も上がる朝日新聞記事 原子力規制委員長は「犯罪的だと思っています」

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朝日新聞本社

 朝日新聞は「いつか来た道」を歩み始めているのだろうか。原発周辺の放射線量計についての朝日の記事が「犯罪的」だと糾弾したのは、原子力規制委員会の田中俊一委員長。関係者の間では、件の記事が第2の「吉田調書誤報」だと指摘する声も上がり始め……。

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 朝日新聞には日々、「訂正・おわび」が掲載される。それも、驚くほど頻々と。

〈18日付1面の急行はまなすラストランの記事で、「『北東北フリーきっぷ』と東北新幹線の立ち席を使ったとき、札幌と盛岡を1人2万4020円で往復した」とあるのは、「立ち席」ではなく「指定席」の誤りでした。乗客の話を取り違え、確認が不十分でした〉(3月19日付夕刊)

〈20日付総合3面「EU難民送還 窮余の合意」の記事で、「対岸のトルコの島からフェリーで着いた約5千人」とあるうち、「対岸のトルコの島」とあるのは「対岸にトルコを望むギリシャ領の島」の誤りでした。記事編集の際に、思い違いをしました〉(3月21日付朝刊)

 こうした「訂正・おわび」が掲載されるのは社会面と決まっている。従軍慰安婦大誤報などを検証した第三者委員会の提言をもとに進めてきた改革の1つで、昨年4月から「訂正・おわび」の掲載面が固定されたのである。

 ご承知の通り、朝日が従軍慰安婦報道の過ちをついに認めたのは2014年8月。同じ年、朝日は福島第一原発事故に関わる「吉田調書」報道でも大誤報を打ち、記事の取り消しに追い込まれている。こうした大不祥事を引き起こした反省から、記事に誤りが発見された場合、すみやかに改め、謝罪する。ゆえに「訂正・おわび」が頻繁に掲載される事態となっているのだとしたら、それは朝日に兆した小さな変化と言って良いのかもしれない。だが、それはあくまで小さな変化に過ぎず、以下に紹介する現在進行形の騒動は、結局のところ朝日が本質的には何も変わっていないことを教えてくれる。それどころか、今回の騒動については、「第2の吉田調書誤報になりかねない」と指摘する声すら上がっているのだ。

問題の記事

■〈事故の教訓はどこへ〉の社説

 問題の記事が掲載されたのは3月14日の朝刊。

〈川内原発周辺の放射線量計 避難基準値 半数測れず〉

 1面トップにデカデカと掲げられたそんな見出しに続く記事にはこうある。

〈運転中の九州電力川内原発(鹿児島県)周辺に設置されたモニタリングポストのうち、ほぼ半数が事故時の住民避難の判断に必要な放射線量を測れないことがわかった。9日の大津地裁の仮処分決定で運転が止まった関西電力高浜原発(福井県)の周辺でも、計画する数が設置できていなかった。事故時の住民避難の態勢が十分に整わないまま、原発が再稼働した〉

 福島第一原発事故後に改定された国の原子力災害対策指針によると、原発から5~30キロ圏では事故の際にはまず屋内退避した上で、モニタリングポストで測った放射線値をみて国が避難を判断することになっている。また、毎時20マイクロシーベルトが1日続いたら1週間以内に避難、毎時500マイクロシーベルトに達したら即時避難することになっているが、朝日の問題の記事によると、

〈鹿児島県は昨年8月の川内原発1号機の再稼働までに、5~30キロ圏に判断の基準となる48台のポストを設置。うち22台は毎時80マイクロまでしか測れず、すぐに避難する判断には使えない〉

 この記事に触れた読者の多くは次のような感想を抱いたのではなかろうか。川内原発の5~30キロ圏に設置されたモニタリングポストの半数は80マイクロシーベルトまでしか測れないもので、避難の判断には「使えない」のか。それは問題だ、と。

 実際には、指摘されたモニタリングポストは避難判断に「使えない」どころか「大いに使える」のだが、朝日は翌15日の社説でも〈放射線量計 事故の教訓はどこへ〉として、しつこくこのテーマを取り上げ、過ちに過ちを重ねたのである。

■「非常に犯罪的」

 一連の朝日の記事に対して激烈な反応を示したのは、原子力規制委員会の田中俊一委員長だった。

「モニタリングによって、我々がいろいろな判断をするために必要十分かどうかということが基本になるのです。それが、あたかも全く判断できないような報道をするということは、原発の立地自治体とか、その周辺の方たちに無用な不安をあおり立てたという意味では、非常に犯罪的だと私は思っています」

 16日、規制委の定例会で田中委員長はそう述べ、朝日に対し、訂正か謝罪記事を出さなければ今後の取材対応を拒否すると通告したのである。しかし、朝日は頑として訂正も謝罪もせず、17日の紙面に形ばかりの釈明記事を掲載。そこには、「大いに使える」モニタリングポストについて、なぜ「使えない」と真逆のことを書いたのかという理由は一言も記されていなかった。無論、そんな内容で規制委が納得するはずはなく、「明確な修正がされていない」として朝日に対して再抗議した。

 繰り返しになるが、朝日記事の最大の問題は、「使える」モニタリングポストを「使えない」と書いたことである。そのモニタリングポストの正式名称は「NaI式検出器」という。

 東京工業大学原子炉工学研究所の松本義久准教授が説明する。

「NaI式検出器の測定範囲は、バックグラウンドレベルから毎時80マイクロシーベルトまで。バックグラウンドレベルというのは普段の放射線数値のことで、東京なら毎時0・05マイクロシーベルト、全国であれば毎時0・03から0・07マイクロシーベルトという数値。それを計測できるというのは、非常に感度が高いということです」

 朝日は80マイクロまでしか測れない、と書いた。しかし、正確には、80マイクロまでの比較的低線量を検出することに能力を発揮するのが、NaI式検出器なのだ。

 一方、高線量率をカバーするために設置されているのが、電離箱式検出器である。朝日の記事ではその存在にすら全く触れられていなかったこの検出器の測定範囲は、1マイクロシーベルト程度から100ミリシーベルト程度となっている。

「朝日の記事には“80マイクロまでしか測れず、すぐに避難する判断には使えない”とありますが、これでは読者に、NaI式だけでは被曝に気付かない、不十分なものだという誤解を与えてしまいます。また、NaI式と電離箱式の2つの検出器を併用するのは、日本だけではなく、世界の常識。記事にはその説明もありませんでした」

 と、松本准教授は語る。問題の記事を書いた記者は、2種類の検出器の併用が「常識」であることを知らなかったのか。

「特集 これは第2の『吉田調書誤報』か!『原子力規制委員長』が犯罪的と怒った『朝日新聞』の問題点」より

週刊新潮 2016年4月7日号掲載

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