少年院で非行少年は「反省」できるのか? 矯正教育のプロが語る問題点

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 前回の記事では、少年院の「24時間、私語禁止」という厳しいルールとその弊害についてお伝えした。

 さて、そうは言っても、厳しい環境下で矯正教育をしている以上、一定の効果はあるのでは、と思う方もいるだろう。

 しかし、長年、刑務所での矯正教育に携わってきた岡本茂樹氏は、新著『いい子に育てると犯罪者になります』の中で、少年院での教育にはいくつも問題がある、と指摘している。

 岡本氏がもっとも大きな問題点として挙げているのが、「非行少年が自身の内面と向き合うような教育をしていない点」である。以下、同書をもとに解説してみよう。

■偽りの作文

 少年院に入所した少年は、矯正教育の一環として作文を書くように指導される。

 岡本氏が紹介しているのは、ある少年の「なぜ非行に走ったか……」という作文だ。

 この少年は、「なぜ自分が非行に走ったのか、今振り返っても答えが見つかりませんでした」という。父親によく殴られたりもしたが、決してそういう家庭環境などのせいではなく「自己中心的で、短気。目立ちたがり屋」な自らの性格に原因を求めたうえで、

「こんな私でも思ってくれる家族のために、もう二度と心配をかけることはしない。もう絶対に迷惑はかけない」

 という誓いの言葉で作文を結んでいる。

 この「反省文」を読んだ指導教官は、少年のかっとなりやすい性格を直し、「思いやり」や「規律ある生活態度」を身に付けさせたい、とコメントしている。

 少年が「親に絶対に迷惑をかけない」と誓い、教官はその彼に「思いやり」などを教えようとする……一見、矯正教育は順調に進みつつあるようにも見えるだろう。

 ところが、岡本氏は、「この少年は自らの内面にまったく向き合っていないし、再犯の可能性すらある」と断じる。

 まず、彼が結局「なぜ非行に走ったのか」について、きちんと分析ができていない点が問題だという。父親に殴られていたこと、言い換えれば「自分自身が傷つけられていたこと」が、彼の性格形成に影響を与えていたはずなのだが、少年はそうした点からは目を背けている。これでは非行の根本の原因に向き合っていないため、彼の問題は解決されない、というのだ。

■迷惑はかけるもの

 さらに問題なのが「絶対に迷惑をかけない」という誓いの言葉だという。

「実際のところ、日々の生活で私たちは人に『小さな迷惑をかけながら生きている』のです。誰にも迷惑をかけないで生きることは不可能です。

 むしろ『小さな迷惑』は人が誰かとつながるためには必要なのです」(同書より)

 もちろん、「人に迷惑をかけまい」と思うことは大切だろう。しかし、その気持ちが強すぎると、結局は感情を抑制し、フラストレーションをためこんだり、また他人と上手につきあえなくなったりする可能性がある、ということである。

 あまりに「いい子」を目指すように教育するとかえって反動がある、というのが長年、矯正教育に携わってきた岡本氏の実感なのだ。

 ちなみに、最近、釈放された清原和博容疑者の謝罪文には、

「必ず人の役に立つ人間になることを心に誓っております」

 という誓いの言葉があった。

 誰もがそうなることを願っているだろうが、この一文、どこか「絶対に迷惑をかけない」といった誓いと似た臭いがしないだろうか。

デイリー新潮編集部

2016年3月29日掲載

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