“聖火台”問題は誰が悪いのか? JSC理事長、隈研吾、森喜朗それぞれの証言

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 4年後に開催の東京五輪・パラリンピック。昨年、立て続けに起こった混乱は小康を得て、いわゆる瘡蓋(かさぶた)ができつつあった。にも拘わらず、それを剥がし、化膿させるかのような問題が噴出したのだ。今さら聖火台がないという「新・国立競技場」。当事者の責任を問う。

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 問題が持ち上がった経緯を関係者が証言する。

「聖火台を忘れるわけがないでしょ。19年ラグビーW杯前の完成を目指していたザハ案の時から、これは『オーバーレイ工事』、ざっくり言うと、競技場が出来たあとに必要な付属施設を作るということで進めてきたんです」

 こんな風に打ち明けるのは、文科省関係者のひとり。ときにわれわれは、トラックで躍動する競技者を臨場感あふれる映像で楽しむことが出来る。これは設置されたレーンに沿って走るカメラを通じてのものなのだが、こういった設備はオーバーレイ工事の範疇となる。

「ザハ案がご破算になってから、改めて新国立の仕様を指示した『要求水準書』を作りました」

 と、これは組織委員会関係者の話である。

「その時も、内閣官房の新国立競技場の整備計画再検討推進室、日本スポーツ振興センター(JSC)、そして組織委員会の3者は、聖火台の『後付け』を了解済み。したがって、水準書も聖火台については触れていません」

 事実、JSCに聞くと、

「聖火台の敷設は、『セレモニー関係機器の設置工事および機材検証』という項目に含まれており、時期としては20年3月以降を予定しています」

 煎じ詰めれば、聖火台のことは新国立のデザインと切り離して考えて、秘中の秘である開閉会式の演出と絡め、開催の4カ月くらい前から詰めようというスタンスだった。そのことの是非はともかく、関係各所が押しなべて「異存なし」とする案件だったのだ。

■“負担増かつ批判増”

 しかるに、どうして今回の混乱に至ったのか。

 状況が変わったのは年末から。五輪予算が当初の6倍近い1兆8000億円規模に膨らみそうだと取り沙汰されたせいだ。今度は、JSCの関係者が言葉を継ぐ。

「面白くなかったのが、森会長をはじめ、武藤さん(敏郎事務総長)、河野さん(一郎副会長)ら、組織委員会の面々でした。負担が増えた分、批判も浴びるわけですから。特に森さんはザハ案が頓挫した際に、“国がたった2500億円も出せなかったのか。組織委員会が出すカネはその比じゃない”とこぼしていたこともあったから、“負担増かつ批判増”は、より神経を逆撫でしたことでしょう」

 そればかりか、

「JSC側からは、“聖火台は五輪にかかわる問題なので、費用は組織委員会の負担でお願いしたい”という提案があった。森さんらは、“これ以上の負担は看過しがたい。聖火台の責任の所在をはっきりさせたい”などと言い始めた。2週間くらい前からです」(前出・文科省関係者)

安倍晋三総理

■首相の任命責任を問う声も

 ザハ案の時からなかった聖火台の存在をたきつけ、その予算負担を擦(なす)り付け合う組織委員会とJSCの面々。どことなく滑稽なやりとりを重ねる当事者の一人であるJSCの大東和美理事長(67)を直撃すると、

「聖火台のことは忘れてはいないよ。何も大きな問題じゃないと思いますし、スケジュール通りにやっています」

 その一方で、

「安倍首相の任命責任は避けられない」

 と指摘するのは、さる閣僚経験者である。

「例えば五輪担当相っていったい何のために作ったのか。予算は文科省が握っているし、権限もない。きっと遠藤本人もどういうことが出来るのかわかってないんじゃないかな。それに、隈案を推薦した審査委員会も悪い。屋根と聖火台との両立に少しでも言及していれば混乱はなかったはず」

 そこで隈氏に尋ねると、

「屋根は鉄と木のハイブリッド構造なので、聖火台の上部に鉄を用いることでも、木に不燃処理を施すことでも対応可能です」

 と説明する。

東京五輪組織委員会会長の森喜朗元首相

■森会長の回答

 審査委員会の後には関係閣僚会議が開かれているが、

「遠藤利明五輪担当相や馳浩文科相、安倍さんに麻生財務相、舛添要一都知事ら16人が一堂に会した。それなのにわずか10分で終わっている。事なかれの典型だよ」(前出・閣僚経験者)

 と断じるのだった。

 わけても論難の声が強い森会長に聞くと、代理人を通じ、こう回答を寄せた。

「聖火台の件は、組織委員会には直接関係がないため、一切お答えできません」

 とは言うものの、東京五輪・パラリンピック推進議員連盟幹事長代理で民主党の笠浩史代議士によると、

「これは運営を任されている組織委員会の問題でもあります。だから、馳大臣や遠藤大臣だけではなく、森さんにも責任があるんですよ。今後、文科委員会などで追及したいと思います」

■猪瀬直樹氏も“森喜朗に責任アリ”

 招致を勝ち取った当時の都知事で作家の猪瀬直樹氏も同様に、

「今回の責任は、五輪の運営を担当する組織委員会のトップである森喜朗にある。だって、聖火台っていうのはオリンピック最大の象徴なんですから。14年に発足した時点で、組織委員会は聖火台やセレモニーの演出などソフト面の議論を始めるべきだった。ところが、それを蔑(ないがし)ろにしてしまったんです」

 そして都知事時代に接した「聖火台プラン」に言及し、こう続ける。

「13年に招致が決まった直後から、非公式にいくつかあがっていました。特に印象に残っているのは、『空中に浮かぶ聖火台』。超伝導なのでしょうか、日本の技術力を誇るものだと思いました。それが今になって“聖火の話が抜けていた”というのは通らない」

 返す刀で、遠藤五輪相と番組で共演した際のエピソードを披露し、こう一蹴する。

「ザハ案で予算を圧縮すべく、クーラー設置を取りやめることになりましたよね。そんなことをしたら熱中症で観客がばたばた倒れるのではと指摘を受けた遠藤さんは、“大丈夫”って涼しい顔で答えた。番組終了後に“やっぱりクーラーつけた方がいいですよ”と僕が言ったら彼は、“私も気にしているんですよ”と。こういった無責任体質が改まっていないのは今回よくわかった。だから、また何か起こるんじゃないかと不安です」

 最後に、2年前に物故した、1964年東京五輪の聖火ランナー・坂井義則さんに代わり、補欠だった落合三泰さんが、

「一番考えなければいけないのは新国立で競技する選手のことであり、トップアスリートを見守る観客たちのこと。批判やいがみ合い抜きに、みんなで成功させるんだという空気になればいいなと思います」

 と、“権力のほてい腹”をつねるように話す。

「特集 今さら聖火台がない『新・国立競技場』大悪小悪の実名リスト」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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