銀行業界が密かに取り組む「“反社”照会システム」とは

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 暴力団対策法の施行から、今年で25年目を迎える。5度の改正を経て、反社会的勢力の経済活動は狭められ、新たに銀行口座を開設することもできなくなった。しかし、一方の銀行は、窓口に訪れた客を一体どうやって“反社勢力”と認定しているのか。

 3月4日、福岡地方裁判所で銀行業界注目の判決が下った。地元記者の解説では、

「昨年、みずほ銀行と三井住友銀行は、指定暴力団・道仁会の幹部2人の預金口座を解約しました。彼らがそれを不当として、解約の無効を求めていたのです。福岡地裁は“解約は有効”と断じて、原告の請求を棄却。その理由は、“口座解約による不利益は、暴力団を離脱することで回避できる”というものでした」

 判決が憲法の定める“生存権”と矛盾するか否か。その議論は別に譲るとして、銀行業界は歓迎ムード一色だ。メガバンクの行員も頬をゆるめて言う。

「“反社”と思しきお客さまから口座開設や融資の申し込みがあったら、身分証明書を提示してもらって、氏名の漢字とふりがな、性別、そして生年月日を必要書類に明記してもらう。それを本部の審査部や融資部に伝えて、“シロか、クロか”を判断しています」

 銀行の本部には、独自に蓄積した“反社データベース”がある。そこでヒットしなくても、大型融資に限って言えば、行員が勤務先や自宅へ足を運んで在籍確認や現状を把握する。さらに、雇用した警察OBなどを通じて当局に問い合わせるケースもあるという。

「最終的に“クロ”の場合、顧客には照会結果を告げずに“誠に恐縮ではございますが、今回は総合的に判断してお取引ができません”とだけ言います。先方から“理由を言え”と詰め寄られたり、怒鳴られることもありますが、平身低頭でお断りするだけ。それでも“反社”と見抜けないことが少なくないのです」(同)

■照会に1、2週間

 確かに、自前のデータやアナログな人間関係だけでは鉄壁のディフェンスとは言えない。そこで数年前から警察庁が保有する“反社データベース”への接続を検討していた全国銀行協会が、2月にそのスキームを取りまとめた。まず、営業店から上がってきたグレーな顧客情報を、銀行本部に設置した専用端末を通じて預金保険機構(預保)に伝える。預保がその情報を警察庁のデータベースに照会し、翌日には回答が得られるという仕組みだ。

 全銀協はシステムが稼働すれば、警察の“お墨付き”が得られるばかりか、預保の“仲介”で情報流出も防止できると、メリットを強調している。だが、穴もありそうだ。大手地銀の幹部は呆れ顔で、

「警察庁のデータベースで“クロ”に該当したら、次に“確実性を担保する”との名目で、都道府県の警察本部に二次照会しなければならない。その回答が1、2週間かかるというのです。通常、融資実行の可否は長くても2、3日程度ですから話になりません」

 また、反社照会の対象は、個人の新規融資のみだという。全銀協は、情報処理が膨大になると言うが、経済誌の金融担当記者はこう懸念を口にする。

「目下、銀行は“口座がなくても、即日発行”を謳い文句に資金使途自由なカードローンを大々的に売り出し中です。一方、警察庁への照会は最低2日必要なので、矛盾する。みずほ銀行などは最高限度額1000万円と高額。旨味があるのはわかるが、カードローンを例外にしたら、照会システムが骨抜きになってしまいます」

 反社との関係は絶ちたいが、1円でも多く儲けたい。そんな銀行らの本音が透けて見えるのだ。

週刊新潮 2016年3月24日号掲載

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