「全棟建て替え」ドミノでマンション業界の憂鬱

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 大手不動産情報サイト「アットホーム」によれば、首都圏のサラリーマンは平均37歳で約3900万円のマイホームを手にして、定年前にはローンを完済するという。だが、住宅購入者の半数が住むマンションで、“欠陥商品”が相次いでいる。

 3月3日、横浜市内のマンションで基礎部分の鉄筋23カ所が切断された疑いが明らかになった。その2日後、販売元の住友不動産が住民説明会を開き、全棟建て替えと世帯ごとに慰謝料200万円の支払いを提示した。昨年10月にマンションの“杭打ち偽装”が発覚した三井不動産グループも、住民に同様の対応を検討しているのはご存じの通りだ。

「業界には不安が広がっています」

 険しい表情を浮かべながら語るのは、マンション販売を手掛ける中堅デベロッパー幹部だ。

「仮に、我々が手掛けた物件で不具合が発見されたとしたら、住民は建て替えを要求してくるはず。ですが、うちにそんな余力はありません。マンション購入の基準も、“建て替え保証の有無”が大きなウェートを占めるようになり、お客さんが大手ばかりに集中してしまう恐れがあるのです」

 なるほど、大手不動産会社の決算は好調だ。2015年4月~12月連結決算を見ると、オフィスの賃料収入増加などで、三井不動産は最終利益が前年同期比34・7%増の951億円。住友不動産も23・4%増の727億円で、いずれも過去最高を更新した。また、今回の建て替え費用の負担配分は正式決定していないが、元請けのゼネコンが責任を負うとの見方が強く、大手不動産会社の傷は浅いと囁かれている。だが、経済ジャーナリストの福山清人氏の分析では、

「今後も“欠陥マンション”が相次げば、ゼネコンや下請けばかりを“犯人”扱いできなくなります。販売責任のある不動産会社も建て替え費用の一部や、“慰謝料”を負担することは避けられないでしょう。そもそも、マンション販売は利益の薄い商売と言われていて、そこに全棟建て替えという新たなリスクが加わった。“冬の時代”の始まりかもしれません」

■誰が杭を打ったのか

 一方、住宅購入希望者には絶好のチャンスが到来している。日銀のマイナス金利政策の影響で、住宅ローン金利が史上最低水準まで低下しているからだ。いくら低金利時代に突入したとはいえ、大きな買い物であることは変わらない。ババを掴まされないために、マンションの下見の際にビー玉を転がして床の傾きを調べる方法は広く知られているが、他に注意すべき点は何か。危機管理を専門とするリスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏によれば、

「マンションが立つ土地の“過去”を調べておくのも有効です」

 その方法は簡単。ネット上の川跡古地図に住所を打ち込めば、かつてそこに川が流れていたり、沼地だったことが瞬時にわかるのだ。また、食品業界では生産者を明らかにし、商品に顔写真を貼り、安全性をアピールする“トレーサビリティー”が浸透しつつあるが、

「マンション業界でも誰が設計して、誰が基礎工事を行い、誰が杭を打ったのかを明らかにして、パンフレットに載せるべきです。逆に、それができない業者のマンションを買うのは控えた方が良いでしょう」(同)

 さらに、売買契約を交わす直前、不動産会社に対して“欠陥住宅ではない”と一筆書かせておけば、問題が起きた時にも優位に立てるという。

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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