「重力波」観測が先なら「梶田」ノーベル賞はなかった?

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 発表から100年――ついに、アインシュタインの“一般相対性理論”を裏付ける成果が挙がった。アメリカの研究チームが昨年9月、重力波の初観測に成功したのだ。

「100年前の宿題を提出したようなもので、ノーベル賞級の業績です」(科学ジャーナリスト)

 あれ? この“初観測”って、昨年ノーベル物理学賞を受賞した、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長の研究成果を上回るものなのでは? 初観測の発表がもっと早かったら、受賞はなかったことにならない?

「それは大きな誤解です。ノーベル賞は、岐阜県の神岡鉱山跡に作られた“スーパーカミオカンデ”を使い、素粒子ニュートリノに質量があることを発見したことに対してのもの。梶田さんはさらに、同じ神岡に設置した重力波検出装置“KAGRA”での重力波観測を目指していました」(同)

 なーるほど。素人には難しいが、ともに輝かしき研究、というわけだ……。

「検出装置の精度が上がれば、重力波はいずれ観測できたもので、どこが最初かは問題ではありません」

 と言うのは、松井孝典・千葉工業大学惑星探査研究センター所長である。

「天文学は、光を観測することから始まり、そこから電磁波へと“窓”を広げてきました。今回の成果は、重力波という全く別の“窓”で、これまで見えなかったものが見えるようになり、“重力波天文学”を切り開くきっかけになります。2002年、小柴昌俊先生がニュートリノの初観測でノーベル物理学賞を受賞しましたが、これが“ニュートリノ天文学”を開拓したのと同じ流れなのです」

 重力波とは、質量のあるものが動いた時に起こる時空のゆがみが、さざ波のように空間を伝わる現象のこと。これを観測することで、

「宇宙の始まりの瞬間や、ブラックホールの解明につながるでしょう」(同)

 今後、“KAGRA”やヨーロッパで準備中の検出装置で同じ重力波を観測できれば、

「その重力波がどこから来ているのかを特定できるようになり、天文学は飛躍的に発展するでしょう」(先のジャーナリスト)

 身近でなくとも、好奇心は大いにくすぐられる。

週刊新潮 2016年2月25日号掲載

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