「アガリクス」「サメ軟骨」に「瞑想」も……日本のがん患者の約45%は「民間療法」を利用している 〈がんになればすがりたくなる「先端医療・先進医療・民間療法」のワナ(4)〉

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東京オンコロジークリニック代表・大場大さん

 医学的根拠に乏しい治療法が、「先端医療」「先進医療」の名で行われ、患者に高額な費用を求めるケースがある――「東京オンコロジークリニック」の大場大・代表は、こう警告する。最終回では「民間療法」に言及。健康なあなたなら一蹴するであろうこれらの“治療法”も、がんに襲われたとき、冷静でいられるだろうか。

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 厚労省研究班による2005年の調査報告では、日本のがん患者さんの約45%が何らかの補完代替医療(民間療法)を利用しているそうです。そしてうち9割以上は、健康食品や漢方、ビタミン剤を含むサプリメントの類。

 こういった民間療法を他にざっと挙げてみますと、サメ軟骨やハーブ、高濃度ビタミンC療法、カイロプラクティックやホメオパシー、気功や鍼灸、瞑想や祈りに至るまで、きりがありません。

 女優・川島なお美さんもこれらに少なからぬ関心があったことが著書『カーテンコール』(新潮社刊)に記されていました。

女優・川島なお美さん

 健康食品の場合、キノコ類が圧倒的に多いのが日本の特徴です。中でもダントツなのが「アガリクス」で、次いで「プロポリス」。

 よく知られるとおり、

「免疫力を高めて、抗がん効果がある」

 などと謳って売られているようですが、実際のがん患者さんに対する効果について信頼できるデータはひとつも存在していません。当然のことながら、先ほど列挙したもので、がんに「効く」と具体的に検証されているものは皆無なのです。

■根拠のない薬に150万円

「がんが消えた」

「がんが自然に治った」

 そのような例もないわけではないのでしょうが、因果関係は定かではありません。むしろ、まったく効果のなかった、あるいは発生し得た健康被害というものについては一切触れないのが常套手段。場合によっては虚偽の体験談もあるようです。

 去る1月25日には、「がんの進行が完全にストップした」などと喧伝していたNPO法人代表らが、警視庁生活環境課に逮捕されました。医師免許を持たないのに、「遺伝子治療」と称し、自製の未承認薬を点滴したという医師法違反の疑いです。他で「治らない」と宣告された患者さんが多かったといい、彼らは1人平均150万円を何ら根拠のない薬に支払っており、実に嘆かわしい。

 いずれにせよ、情報の大海から真実を取り上げるというのはなかなか難しく、ことにがん医療となると、エセ情報の量がけた違い。

 健康なら疑問を挟む余地などないことでも、がんに直面した途端、判断に鈍りが出てくる。そしてそこに陥穽ができます。

「気を付けろ、悪魔は年を取っている。だから、悪魔を理解するためには、お前も年を取っていなければならない」(ゲーテ『ファウスト』)

 とにかく、患者さんそれぞれに、「それって本当なの?」と批判的になれる賢さをお持ちいただきたい。それが、“年を取”り、“悪魔を理解する”ということなのです。

「特別読物 がんになればすがりたくなる『先端医療・先進医療・民間療法』のワナ――大場大(東京オンコロジークリニック代表)」より

大場大(おおば・まさる)
1972年、石川県生まれ。外科医・腫瘍内科医。医学博士。2015年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科学教室助教を退職し、セカンドオピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に、『がんとの賢い闘い方――「近藤誠理論」徹底批判――』(新潮新書)、『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(PHP新書)がある。

2016年2月11日号掲載

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