「北朝鮮」ミサイルの劇的進化は馬鹿にできない 専門家が語る「自称水爆も広島型の10倍の威力はある」

国際 韓国・北朝鮮

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 人工衛星を軌道に乗せた、水爆実験に成功した─―。北朝鮮の「嘘発表」に慣れてしまうと、この度のミサイル発射も、「狼少年」よろしく「またか」との思いを持ってしまいがちだ。しかし、侮(あなど)るなかれ。防衛省内に衝撃が走るほど、確かな進化が見られたのである。

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中谷元防衛相

 2月7日午前9時31分、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを実験発射。5つに分離したそのミサイルは、まず同37分、朝鮮半島の西約150キロの黄海上に、そして同45分には日本から南に約2000キロ離れたフィリピンに近い太平洋上にと、次々と落下した。

 北朝鮮がどんなミサイルを打ち上げようと、日常生活とは関係のない「遠い海」の話。2月7日、多くの日本人は普段通りの休日を過ごしたに違いない。

 事実、中谷元防衛相は、万が一、日本の領域内にミサイルが落下する場合に備えて迎撃態勢を整えよと、事前に自衛隊に破壊措置命令を出していたが、破壊措置が実施されることはなく、「平穏無事」に一日が過ぎた。

■南への発射

 しかし、ミサイル防衛の実務に携わってきた防衛省のさる幹部は、

「北朝鮮の核、ミサイル技術を軽視している風潮に危機感を覚えざるを得ない」

 と、「平和日本」にこう警鐘を鳴らすのだった。

「たしかに、今回のミサイルが我が国に実害をもたらすことはなかった。とはいえ、北朝鮮の技術は間違いなく進歩していると見るべきです。2009年当時、北朝鮮がミサイルを飛ばしたのは東の方角でした。東、すなわち日本海方面ということになるので、一般の日本人にとっては今回よりも恐怖を感じやすい面があった。反面、東に打つ場合、地球の自転の『後押し』が加わるため飛距離を延ばしやすく、技術的には難しくないのです」

 ところが、2月7日のミサイルは南に発射された。

「ミサイルを南に飛ばすと、自転による『追い風』を得られないので、当然、ミサイル自体の推進力がより必要となる。つまり、北はミサイルの技術に自信を深めているため、難しい南への発射を試みたと見ることができるのです」(同)

 留意すべきは落下地点ではなく、ミサイルが飛ばされた方角というわけである。

防衛省

■2012年からの進化

 防衛省幹部が覚えたこの胸騒ぎに、

「南への発射は、言ってみれば向かい風の中を走るようなものですからね」

 とした上で、軍事ジャーナリストの世良光弘氏も同調する。

「追い風を受けて走れる東への発射のほうが成功率は断然に高い。現に12年4月、北朝鮮は南へのミサイル発射に失敗。8カ月後に南への発射に成功してはいるものの、言わばこれは文字通りの実験で、成功するか否かは賭けだった。しかし、今回は充分な成算があった。ここ2、3年でエンジンに何らかの改良がなされるなど、急速に技術力が上がり、自信が確信に変わっていたといったところではないでしょうか」

 その証拠に12年12月と比べてみると、分離したミサイルの各部が発射から海に落下するまでの時間が、今回のほうが3分から6分早まっている。それはミサイルの速度アップを物語っていて、また12年の時と違い、ミサイルから切り離された運用可能な人工衛星を軌道に乗せることにも成功したと分析されていて、やはり進化が読み取れるのである。

■“韓国も為し得ていない「快挙」”

 元航空自衛官で軍事ジャーナリストの潮匡人氏も、北朝鮮の技術向上についてこう解説する。

「東への発射は、その先にある米国への脅しといったパフォーマンス的要素を含みます。一方、今回は、自転が横軸だとすれば、自転の力を利用できない縦軸にあたる軌道に人工衛星を乗せたと見られている。この人工衛星がしっかりと稼働すれば、北朝鮮は世界で10番目の人工衛星自力打ち上げ国となり、韓国も為し得ていない『快挙』です。つまり、今度のミサイル発射は単なる脅しではなく、『実利』を得た可能性が考えられ、それほど北のミサイルは進化していると言えます」

 韓国の国防相によれば、北朝鮮のミサイルの最大射程距離は1万3000キロ程度に達し、これで米国の東海岸、すなわち首都ワシントンにまで北の「魔の手」は届くことになったと分析されているのだ。

 このように、ミサイルの落下地点が日本から距離的には遠く感じられたからといって、北朝鮮の脅威自体は遠くに感じるべきではなさそうなのである。

 そして、ミサイルとともに気がかりなのは、1月6日の「自称水爆」実験に代表される核開発だ。

■核弾頭の小型化

 1月の実験は、原爆の100倍から1000倍の威力を誇る水爆だったと喧伝されたが、爆発の規模やそれに伴う地震のマグニチュードの大きさから、北の自称とは異なり、水爆ではなかったことが定説となっている。これをもって、北の技術、恐るるに足らず、との楽観ムードが広がった感があるが、先の防衛省幹部は、この点についても等閑視を慎(つつし)むべきだと訴える。

「通常、原爆実験初期段階では、その爆発の威力は20キロトン規模になると言われています。ところが、北が13年に行った実験では7・9キロトン、今年1月の『自称水爆』では6・0キロトンと、爆発規模が小さい。ゆえに、過小評価する見解が支配的ですが、逆に、爆発の規模をコントロールできている証ではないかと、我々は疑っています」

 それは、北が核弾頭の小型化を着々と進めている可能性を示唆しているという。小型化は同時に、ミサイルへの核弾頭搭載の危機が増していることを意味する。

「小型化がさらに進むと、ひとつのミサイルに複数の核弾頭を搭載できる多弾頭化も視野に入ってきます。現時点では、多弾頭は米英仏露中の核保有5大国しか持っていませんが、北が多弾頭化を実現すれば、日本の迎撃システムであるイージス艦に搭載されたSM3と、陸上に配備されるPAC3は意味をなさなくなる。なぜなら、両方とも『1対1』型の迎撃ミサイルで、例えば1つのミサイルから5つの核弾頭が切り離された場合、残りの4つは迎撃できないからです」(同)

■全てを迎撃するのは不可能

 前出の世良氏が話を引き取る。

「『自称水爆』は、本物の水爆ほどの威力は持たないものの、広島・長崎型原爆の10倍の威力がある『ブースト型』の原爆だったと思われます。この技術を保持しているのであれば、核の小型化の研究も当然進んでいると考えるべきです」

 北は既に700キロまでの小型化には漕ぎつけていて、「多」ではなく「単」、つまりひとつだけであれば、現時点で核弾頭をミサイルに搭載可能とも言われている。したがって、

「長距離弾道ミサイルよりも完成度が高く、日本が射程圏内に入っているノドンに核弾頭を載せて発射することは、今すぐにでもできるはずです。北はノドンを80発、発射台を30台持っていると伝えられていて、仮に一斉に発射されたら、SM3やPAC3で全てを迎撃するのは不可能。その上、ロシアなどから技術を得られれば、早ければ5年で多弾頭化が実現されるかもしれず、北の脅威は増すばかりです」(同)

「特集 南の空に飛翔体! 防衛省に胸騒ぎ! 中国が警戒感! 馬鹿にできない『北朝鮮』ミサイルの劇的進化」より

週刊新潮 2016年2月18日号掲載

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