老いを防ぐなら魚と肉を「1対1」の割合で食べなさい〈慶大医学部が見つけた老化しない人の共通項目(2)〉

ドクター新潮 健康 長寿

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 ノンフィクション・ライター西所正道氏が明らかにする「老化の原因は何なのか」。第1回では、世界有数の長寿研究を行う慶應義塾大学医学部に付属する「百寿総合研究センター」の調査を紹介し、老化の正体の一端が「慢性炎症」にあると述べた。また、同センター専任講師の新井康通医師は、慢性炎症の原因として「肥満」「免疫機能の効率低下」「細胞老化」の3つを挙げる。

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 ここからは、過去に学会などで発表されたデータや慶大の研究を補強する専門家の意見を交えつつ、老化予防を見ていく。何年か後の慶大論文を半ば先読みする恰好である。

 まず食事について。

 研究チームが2年前に発表した、85歳以上の男性高齢者216人を調べた結果が興味深い。

「抗炎症作用を得るとしたら魚に含まれるEPAやDHAが有効。魚をたくさん食べている人の方が炎症反応が少なかったし、歩行速度も速かったのです」(新井医師)

 その一方で、たんぱく質の摂取も大切である。加齢とともに虚弱状態(フレイル)に陥りやすいからだ。筋力低下、疲れやすい、歩くのが遅いなどがその代表的な症状だが、これは慢性炎症とも関わりがあると言われる。

 全国の百寿者調査のパイオニア、柴田博医師(桜美林大学名誉・特任教授)もこう強調する。

「高齢者にとって危険なのは低栄養です。歳をとるとともに動物性たんぱく質の量を上げたほうがいい」

 柴田医師は、最近の日本人の血中アルブミン(たんぱく質)値が減っていることを危惧している。

「アルブミンは血管や細胞の膜を構成している。この値が低い人は、寝たきりや認知症になりやすく、早く死亡しやすいのです」

 長く東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター)に在籍した柴田医師が、10年に亘り追跡調査したところ、70歳時のアルブミン値がもっとも低い群の死亡率が、実は最高だった。だから、血中アルブミン値は基準値の4グラムは保って欲しい、という。

「私が推奨するのは、魚と肉を『1対1』の割合で摂取することです。60代ならば、魚と肉、それぞれ毎日60~70グラム食べていい」

■ネバー・トゥー・レイト

 次に運動。

「テロメア(※細胞老化の元。染色体を保護する役割を担い、細胞分裂のたびに短くなる)が短くなるのを遅くするには、魚の摂取に運動を組み合わせるのがよいという海外の論文があります。それに厚労省では、いまより10分多く運動を日常生活に取り入れようという『プラス10運動』を勧めていますが、これも参考になるでしょう」(新井医師)

 この運動によってがんを3・2%、認知症なども8・8%、それぞれ発症率を低下させることができると、厚労省が公表しているから見過ごせないのである。

 さらに、前出の虚弱状態の予防には、筋力トレーニングが効果的だとされる。

 筑波大学名誉教授で、運動生理学が専門の勝田茂氏は、「高齢者こそ筋トレをやるべきだ」と指摘する。

 勝田氏は、あとで紹介するような高齢のスポーツ選手の運動機能などを調べてきたが、抗しがたい現実を口にする。

「筋肉というのは20代がピーク。何もしなければ50~60代までは年率1%ずつ、70~80代だと年率2%、そして80歳を過ぎると毎年3%ずつ落ちていくのです」

 傘寿目前の勝田氏自身、テニスでよい成績を残したいと65歳から筋トレを開始。週1回45分程度の筋トレを継続中だ。

「50歳のときには筋肉が減って脂肪が増えていましたが、70歳になると50歳以前の状態にまで筋肉の状態が戻っていたのです」

 お勧めはスクワットで、まず10回。楽にできたら、1日に2~3セット……と増やしていく。早足で歩幅を広めにして歩く、あるいは、やったことのないスポーツに挑戦するのもいい。

「記録を出している高齢アスリートを調べると、50~60歳以降で運動を始めた人が少なくない。だから私は言っているんです、“ネバー・トゥー・レイト”。遅すぎることはないと」(同)

(3)へ続く

「特別読物 700人の『百寿者』を追跡調査! 慶大医学部が見つけた老化しない人の共通項目――西所正道(ノンフィクション・ライター)」より

西所正道(にしどころ・まさみち)
1961年奈良県生まれ。著書に『五輪の十字架』『「上海東亜同文書院」風雲録』 『そのツラさは、病気です』、近著に『絵描き 中島潔 地獄絵一〇〇〇日』がある。

週刊新潮 2016年2月4日号掲載

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