イラン大統領がお披露目した「8000万人市場」の陥し穴

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 東はインド、西はリビアまで支配した古(いにしえ)の世界帝国アケメネス朝ペルシア。大王キュロスはイラン建国の祖と呼ばれるが、彼に国を滅ぼされたある王は、火刑に臨んで大王にこう答えた。

「平和より戦争をえらぶほど無分別な人間がどこにいるだろうか」

パリのエリゼ宮でオランド大統領の出迎えを受けるイランのロウハニ大統領

 昨年、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国と歴史的な核合意に到ったイラン。核兵器開発中止を受けて各国の経済制裁が解除される中、ロウハニ大統領は1月25日からイタリア、フランスなどを歴訪、“爆買い”で世界を驚かせた。

「イタリアでは石油パイプライン建設などで170億ユーロ(約2兆2000億円)相当の契約を結び、フランスではエアバス社から旅客機118機、220億ユーロ(約3兆円)の買い物。経済制裁で凍結されていた在外資産が約1000億ドル(12兆円)ありますし、老朽化した施設やインフラ整備は急務。ロシアと中国は原発建設を予定し、中国は高速鉄道の整備計画も。イラン政府は2022年までに22兆円もの投資を考えているとのことで、各国が群がっているのです」(経済部記者)

 人口8000万人に届かんとする巨大市場の国際社会復帰に、ダイムラーやプジョーといった自動車メーカーや航空各社、石油関連大手も売り込みに躍起だ。

「イランは原油埋蔵量が世界4位、天然ガスは世界1位の資源大国です。日本のエネルギー安全保障上も重要ですし、テロもなく、非常に親日的な国です」

ローマでイタリアのレンツィ首相と話すイランのロウハニ大統領

 とは、現代イスラム研究センターの宮田律氏。

「日露戦争で勝った日本をお手本に立憲革命を起こし、『おしん』が視聴率90%を超えるような国なのです」

 日本にも商機だが、油断はならない。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は言う。

「イランが核武装の野心を捨てたのか、懸念が残ります。イスラエルは制裁解除にいまだ反対、イランと断交したサウジの動向も予断を許さない。中東のさらなる不安定化もありえます」

 冒頭の逸話には続きがある。大王は火刑を取りやめ亡国の王を解き放ち、以後その言葉を仰いだという。イランは核武装の誘惑に耐え、大王の叡慮を見習うことができるだろうか。

週刊新潮 2016年2月11日号掲載

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