吉田鋼太郎が告白「蒼井優を叩きそうに」「白石加代子にキス」 蜷川幸雄を驚かせた演技

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 1月26日東京神楽坂「la kagu」内レクチャースペース「soko」にて、演出家・蜷川幸雄さんの創作世界を案内する『蜷川幸雄の仕事』蜷川幸雄、山口宏子ほか[著](新潮社刊)の刊行記念イベントが開催された。著者の山口さんが蜷川作品の常連である俳優の吉田鋼太郎さんを迎え、蜷川作品との出会いから、蜷川さんの素顔、演技への影響など、“旬の俳優”が稀代の演出家を語り尽くした一夜となった。

■蜷川幸雄にインパクトを与えた「キス」

 吉田さんはシェイクスピアシアターでプロの俳優としてのキャリアをスタートさせた。蜷川さんとの出会いは2000年ギリシヤ悲劇を10本まとめた大作「グリークス」でのことだった。蜷川さんは当時吉田さんのことを知らず、吉田さんの履歴書を見て「誰だこれ?」というような反応だったという。役は、白石加代子さん演じるクリュタイムネストラ(ギリシャ軍総大将アガメムノンの妻)の愛人。吉田さんは蜷川さんとの初仕事はこれからの人生がかかった「伸るか反るか」の賭けだと考え、最初の稽古で誰もしないことをして強く印象づけようと考え、いきなり白石さんに「キス」をした。もちろん台本にはない。「加代子さんには、畏れ多いということもありますし、誰もそんなにキスしない」と会場を爆笑させた。その演技をみていた蜷川さんが目を見開き、食い入るようにみていたと当時共演していた寺島しのぶさんが語っていたという。

■蜷川流の厳しいダメ出し

 蜷川さんに認められた吉田さんはその後蜷川さんの舞台に欠かせない俳優の一人となった。蜷川さんといえば厳しいダメ出しで知られるが、吉田さんは人生で一番つらかったダメ出しを明かした。それは2004年のギリシヤ悲劇「オイディプス王」再演の稽古場。吉田さんは、自ら目を潰して王位を去るオイディプスから権力を引き継ぐ義弟のクレオンを演じていた。吉田さんが2年前の初演と同じくオイディプスを包み込むような暖かい演技をしたところ、「おい!偽善者!」と厳しい言葉が投げかけられた。吉田さんは日常の生活のなかで自分を偽善者だと思うことがあったという。そこにその言葉が飛んできて、自分の全人格を否定されたかのようだったと当時の心境を振りかえった。

 山口さんは「蜷川さんはまずは自由に俳優に演技をさせる。そのうえで、よりよい演技を引き出すために、罵詈雑言をぶつける」と語り、「コンビニ俳優!」(とりあえずは間に合うが、本当に欲しいものはない)、「脳みそ筋肉!」(熱演だが、知的な分析が不足)などの代表的な言葉を紹介した。吉田さんも「缶詰のアスパラガス」など、蜷川さんの容赦ない、しかし、絶妙な比喩に触れ、「悪口の天才」と感心。二人は、蜷川さんはそうやって俳優の痛いところをついて刺激し、揺さぶって表現を劇的に変える、と語りあった。

 吉田さんは他にも藤原竜也さんや小栗旬さん、成宮寛貴さんら若手俳優が蜷川作品で成長していったと紹介。また山口さんは、吉田さんが稽古中に激しく床を殴って自分自身の手を骨折したエンピソードから、役に集中する桁外れの激しさを指摘。蜷川さんの考えを一瞬で理解し予想を上回る演技で応酬して、蜷川さんの信頼を得ていると分析。吉田さんは、四大悲劇「オセロー」に主演した時、稽古で相手役の蒼井優さんを本気で叩こうとして、「その時ばかりは、蜷川さんがあわてて『やめろ!』と叫んで、止められた」と苦笑した。

 吉田さんはまた、「稽古の厳しさに、這い上がってこられなかった役者もいる」と、イベントでしか聞くことのできないエピソードも披露。苦しく熱い「蜷川幸雄との仕事」をユーモアを交えて語り、笑いの絶えないイベントとなった。

デイリー新潮編集部

2016年1月29日掲載

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