原油安にイラン断交「サウジ王家」に迫る斜陽

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 年明け早々の3日、世界中に激震が走った。

「サウジアラビアが突如イランに国交断絶を突きつけたのです。西アジアの両大国が争えば中東大戦争、いや第三次世界大戦の可能性もある」(外信部記者)

 サウジがシーア派指導者ニムル師を含む47名の死刑執行を発表すると、シーア派が多数を占めるイランは最高指導者ハメネイ師をはじめ激しく反発。暴徒化した群衆がテヘランのサウジ大使館を襲撃し、サウジは断交で応じたのだ。

 東京外国語大学の飯塚正人教授は言う。

「スンニ派の盟主を自任するサウジにとって、シーア派の牙城イランは最大の仮想敵国。元々イランはペルシャ人の国でアラブではない。民族の違いに加え、王制を倒したイランの国是は“革命の輸出”。サウジ王家には脅威ですし、シリア問題でも対立しています」

 サウジが反体制派を支援しているのに対し、イランはアサド政権支持である。

「サウジは、北はシーア派政権のイラク、シリア、イランからなる“シーア派の三日月地帯”に直面し、南のイエメンではシーア派系の武装組織フーシ派と対峙。このフーシ派の跳梁はイランの差し金だとサウジは主張しています。加えて、最近はサウジと事実上の同盟関係にあるアメリカをはじめ、欧米諸国がイランに接近、サウジの苛立ちは募っていたはずです」(同)

 イランは昨年7月、アメリカなど6カ国との歴史的とも言える核合意により経済制裁の解除が目前と見られていた。世界有数の産油国である同国には日本を含めた各国閣僚が次々と訪問、国際社会への復帰を着々と進める“宿敵”にサウジは怒りを募らせたのか。

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は言う。

「現時点ではよもや開戦に到るとは思えませんが、もし戦えば、いまや世界最大の武器輸入国であり、最新装備を持つサウジが緒戦は有利でしょう。が、サウジの兵力10万人強に対してイランは55万人。地上戦で得意の人海戦術に出られたら苦戦は必至、しかもイランには弾道ミサイルがある」

 ドロ沼の戦争に発展しかねぬ以上、サウジが戦端を開く可能性は低い、と識者たちは口を揃えるが、

「注目すべきはむしろサウジの国内事情です」

 と言うのは現代イスラム研究センターの宮田律氏だ。

「宮廷革命を呼びかける文書が出回るなど、王家が揺れているのです」

■深刻な財政難

「そもそも、処刑された47名のうちシーア派活動家は4名、残りはスンニ派です。王家を反イスラムと非難し死刑判決を受けた人物が含まれています」(同)

 むしろ国内の治安引き締めを目的に死刑が執行されたのではないかというのだ。

「サルマン現国王は現在80歳と高齢ながら、昨年1月に即位したばかり。短期間に何度も皇太子をすげ替えるなどして王家内部で軋轢を生んでいます。また、昨年3月から開始されたイエメン空爆で主導的な役割を担ったムハンマド皇太子は成果が出せぬ上、無謀な戦争を始めたと王家内部に出回ったとされる文書で強く批判されています」(同)

 しかもサウジは現在、財政難に陥っているという。

「原油価格の低下から、サウジの財政赤字が深刻化しています。失業率が30%に達するという見積もりもあり、国民の25%が貧困ライン以下の生活を送っています。国内の不満は鬱積するばかりです」(同)

 政府は不動産を売却したり、国営石油企業の上場を図るなど措置を講じているが、その一方でサルマン国王は昨年夏、側近1000人を引き連れ、南仏で豪華なバカンスを楽しんでいる。

「革命直前のイラン王家を連想してしまいます」(同)

 一度傾いた夕日は、落ちるのも早いものだが。

週刊新潮 2016年1月21日号掲載

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