「小渕優子」議員が使った“残念”“遺憾”という禁句 間違いだらけの「謝罪会見」事例研究2015(4)

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 企業の危機管理のプロである田中辰巳氏が、不祥事が発生した際の対応について論じてきた当連載。危機管理には、「感知・解析・解毒・再生」という4つのステージに合わせた対応が求められるというが、今回は「解毒」に成功した企業と、「再生」に失敗したあの大臣のハリボテの謝罪会見について分析した。

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 愚直ながら、巧みに「解毒」を成功させた例として挙げたいのは、まるか食品だ。昨年末、主力商品のカップ焼きそば「ぺヤング」に、ゴキブリが混入していたことが発覚した。看板商品の売り上げに依存する中小企業はこの一件で存亡の危機に立たされた。だが、同社は即座に「全品回収」を宣言。今年6月まで半年間に及ぶ「生産販売の中止」という厳しい処分まで自らに科した。大企業でも異例の措置だが、消費者に「えっ、そこまでやるの?」と思わせたことで「解毒」を果たしている。

 被害者が「忘れる」ことこそが、危機管理にとって最高の結末なのだ。

 反対に、稚拙な対応で不祥事の影響を長引かせてしまうケースもある。

 最たる例が昨年、政治資金問題で経産相を辞した小渕優子衆院議員である。元秘書2人が有罪判決を下された今年10月に改めて会見を開いたものの、焦点となるお金の流れについては、

「お恥ずかしいが、後援会や収支報告書のことは事務所スタッフに任せきりにしていた」

 と、あくまでも“知らなかった”を強調した。

 実は小渕氏は、昨年の大臣辞任直後の会見でも、

「このような形でお騒がせしていることを、本当に申し訳なく思っています」「役割を十分に果たすことができず、本当に残念です」

 と、謝罪の場面で使ってはいけない禁句を連発させたのである。 

 残念や遺憾という言葉は、自分の無念な気持ちを述べているだけで、謝罪の気持ちが伝わらない。また、お騒がせしたことを詫びるのは、問題の発生ではなく、“発覚”が想定外だったと言っているに過ぎない。さらに、監督責任のある立場の人間が知らなかったということ自体、信用を下げる。

「遺憾」、「お騒がせ」、「知らなかった」に、「誤解」という言葉を加え、その頭文字を並べると「イゴオシ」になる。つまり、当事者意識に欠ける、ハリボテの言葉を使った謝罪会見では、「以後、おしまい」だと知ってもらいたい。

 筆者はこれまで、数多くの経営者に危機管理の重要性を説いてきた。彼らに共通するのは“謝罪会見は恐い”という認識である。しかし、これまで述べてきたように、理論さえ押さえれば謝罪会見は決して難しいことではない。数億円単位の費用を掛けてお詫び広告を打つより、はるかに効果が見込めるのも事実だ。

 不祥事の実態をくまなく掌握して自らの罪を認識し、被害者の心を動かす謝罪を述べる。その先にしか、危機を乗り越えて「再生」する道はないのである。

「特別読物 間違いだらけの『謝罪会見』事例研究2015――田中辰巳((株)リスク・ヘッジ代表)」より

田中辰巳(たなか・たつみ)
1953年愛知県生まれ。メーカー勤務を経てリクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に危機管理コンサルティング会社「リスク・ヘッジ」を設立。著書に『企業危機管理実戦論』などがある。

週刊新潮 2015年12月17日号掲載

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