美人揃いの北朝鮮「モランボン楽団」北京公演ドタキャン事情

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 プラチナチケットを入手した中国のファンも肩を落としたに違いない。目下、ドタキャン騒動で物議を醸しているのは、“将軍様”プロデュースのガールズユニット「モランボン楽団」である。新手の韓流アイドルと言われても全く違和感のない美女たちを襲った、国家的裏事情とは――。

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 デビューからわずか3年で海外公演に漕ぎ着けたのだから、アイドルとしては大出世の部類だろう。耳慣れないグループ名だが、北朝鮮ウォッチャーの間では、かねてから異色ずくめの存在として注目を集めていた。デイリーNKジャパンの高英起編集長によると、

「2012年7月のデビュー公演はあまりにも衝撃的でした。これまでの北朝鮮では考えられないボディコン風のミニスカートや、スパンコールのドレスで悩ましげに腰を振る。持ち歌の多くはプロパガンダソングですが、テクノポップやロック調にアレンジしています。韓流アイドルの“少女時代”を意識した白い軍服風のコスチュームにも目を見張りましたね」

 映画『ロッキー』のテーマ曲や、ディズニーソングのメドレーもカバーするが、これも反米を掲げる北朝鮮では異例中の異例だ。

「衣装や振付、演出は全て金正恩の趣味で、デビュー公演ではファーストレディーのリ・ソルジュを初めてお披露目した。そんな特別な“演出”をするのは、この楽団が金正恩の肝煎りだからに他なりません」(同)

 だが、“大物プロデューサー”の寵愛を受け、今月12日には待望の北京公演に臨むはずだったアイドルたちは、本番直前になって突如、帰国してしまうのだ。

■ゴシップ報道

 そもそも、今回の公演は冷え切った中朝関係を改善し、首脳会談へと繋ぐための露払いと目されてきた。彼女らはいわば“アイドル外交”を担う特使。それなのにドタキャンした理由は、

「やはり10日に公表された、金正恩の水爆保有発言の影響が大きい。現在の中国は北朝鮮の核保有を認めない方針ですし、あの発言によって、公演を観覧する共産党幹部の格下げを行ったと言われます。それに抗議する意味で帰国させたのではないか」(同)

 プロデューサーが“爆弾”発言でファンを煽るのは、日本のアイドル業界ではお決まりのパターンだが、さすがにやり過ぎだったか。

 その一方で、

「中国政府は水爆発言の翌日に楽団を歓迎するコメントを出している。最大の原因はむしろ、韓国のゴシップ報道にあると思います」

 と断言するのはコリア・レポート編集長の辺真一氏。

「モランボン楽団が中国入りして以降、韓国メディアは団長のヒョン・ソンウォルが金正恩の元愛人で、一番人気のメンバーが現在の愛人だと書き立てました。こうしたゴシップ記事を読んだ金正恩が、“なぜ中国は報道を規制しないのか”と激怒して、彼女たちを引き揚げさせたのでしょう」

 確かに、アイドルがプロデューサーとの恋仲を噂されてはマズい上、相手は時の最高指導者でもある。とはいえ、本当にゴシップ記事だけが原因なのか。「北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会」副代表の宋允復氏はこう語る。

「17日は金正日の命日で、北朝鮮は12日から哀悼期間に入ります。国内では派手な行いが厳しく禁じられ、かつて哀悼期間中に酒を呑んだという人民武力部の幹部は射殺された。そんな時期に楽団が中国で愛嬌を振り撒くことに疑問の声が上がり、金正恩が急遽、撤退を決めたようなのです」

 結果、“実務上の意思疎通の欠如”という奇妙な理由で海外公演はお流れに。

 国は違えど、アイドルを悩ませるのはいつも“大人の事情”なのである。

「ワイド特集 サンタクロースのすべらない話」より

週刊新潮 2015年12月24日号掲載

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