談志も一目「あしたひろし」の話芸

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 漫才師のあしたひろしさんが、11月3日に老衰のため逝去。享年93。

「あした順子・ひろし」は、現役最長老の漫才コンビだった。ひろしさんが10歳年下の順子さんとコンビを組んだのは1960年。夫婦ではない。〈弟子師匠の間柄です。僕が師匠で〉〈あたしが大師匠でございます〉の、お決まりの文句も、絶妙な間があり老若男女を問わず爆笑してしまう。

 漫才師だが落語協会にも長く所属していた。芸の評価に非常に厳しかった立川談志は、あした順子・ひろしを寄席の漫才として一番いい漫才と一目置いていた。98年に「週刊現代」の連載でこんなふうに評している。

〈二人は現代を喋ろうとして“若さを求める”、ということをしたときにそのまま現代から遠ざかるのだということを芸の何処かで知っているのだろう。これは偉い〉と言う。さらに、落語優先の無言の押しつけがある寄席のなかで、おのれの芸を作り上げた珍しいケースで、〈この二人に芸の上で対抗出来うる咄家とて少ない〉とまで話芸を買う。

〈あまりギャグを押さない。この方法も寄席で受ける為に会得した手段なのか心にくいばかりに作りあげた〉とドロ臭さが抜けてきた変化も捉え、手放しで褒めている。

「盛り上げても場を荒らさない。寄席の色物としての漫才の名手です。ビートたけしもファンだったように、言葉と間の巧みさが玄人受けしました。ただ、誰にでも知られるテレビ芸人ではなかった」(演芸担当記者)

 順子さんがひろしさんを鮮やかに首投げする技でも沸かせたが、高齢になってからはさすがに披露していない。2010年まで舞台に上がった。ただ長生きしたのではなく、飄々(ひょうひょう)と笑いを取る芸を持ち続けていた。

週刊新潮 2015年12月17日号掲載

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