“油混じりの湯”が沸く温泉(北海道) 全国「濃すぎる温泉」体験記(1)

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 今年も温泉シーズン到来! 行くからには、気持ちよさだけでなく、高い効能も期待したいが、なにを規準に選べばいいのか。わかりやすいのはお湯の「濃さ」である。全国から選りすぐった「濃すぎる」温泉を、読者に先がけて本誌記者が探訪し、浸かってみた。

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豊富温泉 ニュー温泉閣ホテル(北海道)

 寒さが増すにつれて温泉が恋しくなるが、そうした身体の欲求は、自然の摂理にもかなっているという。

「秋から2月ごろにかけて、温泉の効能が1年で一番高くなります。気圧配置の影響だと思いますが、温泉の溶媒である水の還元作用が強くなるのです」

 札幌国際大学元教授の松田忠徳氏(温泉学)は、そう語ったうえで続ける。
 
「そのうえ温泉の溶質、つまり成分が濃いなら鬼に金棒。薬もかなわない“効く温泉”になるし、薬と違って副作用もありません」

 そうであるなら、日夜鬼デスクにこき使われ、ガタがきている記者のカラダで試してみるにしくはないだろう。北から南まで、選りすぐりの濃すぎる温泉ばかりを訪ねる旅に出た。

■ワックスの臭い

 いきなり目指したのは、北海道でも最北の地、稚内のすぐ南に位置する豊富(とよとみ)温泉。なんでも、そこでは油が混じったお湯が湧きだしているというのだ。札幌からバスに揺られること約5時間、降りた途端、牛の糞の臭いがした。温泉郷は牧場に囲まれているらしい。

 ニュー温泉閣ホテルにチェックインし、さっそく浴場に向かった。「ゆ」と書かれた暖簾の前に立つと、油の臭いがプーンと鼻をつく。浴場奥の浴槽に向かって足を踏み出すと、ぬるぬるして滑りそうになる。聞きしに勝る油の存在感。記者はこれからオイルサーディンにされるのだろうか。

 浴槽をのぞくと湯の色は黄色で、レモン汁のような濁りがある。それほど熱くない。思い切って首まで浸かってみた。湯の中で腕をさすってみると、油に汚れた皿を洗ったあとの手のような感触だ。そして、なにやら記憶のある臭い――。小学校の大掃除で使ったワックスの臭いではないか。

 浴槽の右手奥に据えられた湯口は、温泉の成分がこびりついて岩のようになっている。湧き出るお湯を舐めると、しょっぱい。30分ほど出たり浸かったりを繰り返し、温まった体をタオルでふくと、肌がスベスベだった。ホテルの上坂敬志社長(65)に話を聞いた。

「大正15年、石油会社が試掘し、石油や天然ガスと一緒に温泉が噴き出したのが最初です。油混じりの温泉はここだけでしょう。弱アルカリ性の塩化物泉で、31度の源泉を40度ほどに加温しています。源泉のタンクには真っ黒なタール分が溜まっていますよ」

 効能はというと、

「神経痛や関節痛、打ち身、痔疾、慢性消化器病……とありますが、なんと言っても火傷や切り傷の治りが早い。昭和初期に全身の7割を火傷した患者がここに入って回復したというし、アトピーで体が突っ張って歩けなかった男の子が、3年ほど通って走れるまでになったこともありました」

 日ごろ保湿クリームが手放せない記者だが、この日は不要だった。

■豊富温泉 ニュー温泉閣ホテル(北海道天塩郡豊富町)
 1泊2食付9000円~ 日帰り入浴500円
(電話)0162-82-1243

「特集 2分以上は浸かれない? 全国『濃すぎる温泉』体験記」より

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

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