元女子フィギュア・鈴木明子さん「160センチで32キロ」 美談ですまない「女性アスリート」過酷の日々(2)

ドクター新潮 健康 運動

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 来年の夏に迫った、リオデジャネイロオリンピック。

 女性アスリートの活躍が注目される。政界や財界では「女性登用」が叫ばれる昨今だが、ことスポーツ界に関して言えば、とっくの昔に女性優位。先のロンドン五輪でも金メダルの獲得数は既に女子が上回っているし、浅田真央選手など、アイドル以上の人気を誇るアスリートも出てきている。

 ところが――。

 そうした華やかさの裏側で、女性アスリートには、男性からは決して窺い知れない“戦い”がある。競技相手を打ち負かす以前に、彼女たちは、女性であるがゆえに、自らの身体と心を削っているのだ。テレビには映らない、その苦闘を越えた選手に胸中を聞いた。

「医師には『30キロを切ったら入院』と強く言われましたが、入院したら二度とスケートには戻れないと思ったのです。それでも食事を取れないまま体重は32キロまで落ちてしまい、絶望に打ちひしがれました」

 そう語るのは、バンクーバー、ソチと二度の冬季五輪出場を果たしたプロフィギュアスケーターの鈴木明子さん(30)。

 彼女には「摂食障害」に苦しんだ“過去”があった。

 フィギュアを始めたのは6歳の頃だが、体重維持がプレッシャーになったのは愛知県豊橋市の実家を離れ、東北福祉大学へ進学した後のこと。仙台を拠点とする長久保裕コーチに師事し、一人暮らしを始めてからだ。

「自分で管理しなければと思うと、完璧にやろうという気持ちが強すぎて」と振り返る鈴木さん。肉類は食べず、油も極力使わない。野菜や大豆製品中心にベジタリアンの食生活だった。

 さらに、摂食障害のきっかけは、17歳でクロアチアでの国際大会に出場した時。帰りの乗り継ぎでドイツの空港に降りた際、コーチに勧められてステーキを口にした数分後――。

「それまでお肉を避けていたので胃がびっくりしたのか、腹痛と吐き気を催して、激しい嘔吐に苦しみました。帰国後も何も喉を通らぬ日が続き、体重を量ると、48キロ以下にならなかった体重が数キロ減っていた。練習していても身体が軽く、調子が良いように感じたのです」

 もう少し痩せたらもっと楽なのかな……と、その勘違いが、選手生命をも脅かす大事につながっていく。

「その後も食欲はあまりわかず、40キロを切った時にはもう手遅れでした。自分の意思で食事をコントロールできず、お腹がすく感覚はあっても、何を食べたらいいのかわからない。食事が怖くなったのです」

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