「井上証言」怪しくて「菊地直子」無罪なら「再審請求」の大嵐

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 法務検察当局にとって、まさに寝耳に水だったに違いない。東京高裁は、オウム真理教の“走る爆弾娘”菊地直子被告(43)に対し、逆転無罪を言い渡した。決め手となったのは、「井上証言」が怪しいと判断されたことだが、ならば、オウム死刑囚から再審請求の嵐が起こってしまうのではないか。

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 ある検察幹部は憤りを隠せない。

「驚くべき判決でした。当時、オウムによる地下鉄サリン事件が起き、何人もの尊い命が奪われた。菊地がかかわった事件は、教祖の麻原彰晃を逮捕させないための捜査攪乱が目的だと見られていました。罪の意識もないのに、なぜ、彼女はその後、逃げ続けなければならなかったのか、その説明がつきません」

 17年間の逃亡の末に逮捕された菊地元信者は、1995年に起こった都庁郵便小包爆発事件で、爆薬の原料を運んだとして殺人未遂幇助などの罪に問われていた。東京地裁の裁判員裁判では、懲役5年の実刑判決が宣告されたものの、東京高裁で、11月27日、逆転無罪判決が言い渡されたのである。

 東京高裁の大島隆明裁判長とは、どのような人物か。

 司法担当記者が解説する。

「一言で言えば、超が付くほどの堅物です。推測と結論の問に飛躍があってはならないと標榜し、厳格に法律を扱うタイプ。ですから、検察側の言いなりにならない代わりに、一般常識に基づく判断というものもなかなか見られない。結果、これまでも思いがけない判決を下すことが少なくありませんでした」

 例えば、“三鷹女子高生刺殺事件”で、懲役22年の一審判決を破棄し、東京地裁に審理を差し戻し。さらには、横浜地裁時代、戦時下最大の言論弾圧とされた“横浜事件”で、元被告に刑事補償を認め、実質的な冤罪認定を行った。また、東京地裁では、“共産党ビラ配布事件”に、無罪という結論を出している。

■不自然

 当然のことながら、菊地元信者への無罪判決には批判の声が上がった。

 オウム裁判の傍聴を続けているジャーナリストが言う。

「無罪の理由は、教団幹部だった井上嘉浩死刑囚の証言が、事件から17年も経っているのに詳細かつ具体的なのは不自然で信用できないと判断されたからです。要するに、検察の描いた筋書き通りに証言しているのではないかと疑われたのです。ですが、すでに刑の確定しているオウムの死刑囚は13人を数え、そのなかでも、麻原や林泰男、遠藤誠一らの裁判では、井上証言が重要な役割を担っていました」

 ならば、再審請求を申し立てられる可能性はあるのか。

「再審請求は、判決に用いられた証拠が偽物だったり、証言がウソだと明らかになった場合、裁判所に申し立てることが許される。普通の刑事裁判と同じ扱いなので、印紙代はかからず、必要なのは弁護士費用のみです。死刑囚や服役中の元信者に限らず、すでに刑期を終え、出所していたとしても、菊地のケースと同様に、井上証言がデタラメだということになれば、再審請求することができます」(同)

 未だ、大嵐の前兆だったのか。

「ワイド特集 日出ずる処 日没する処」より

週刊新潮 2015年12月10日号掲載

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