[マンション偽装]会見せずに札束で住民を黙らせる「三井不動産」の思想と品格

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 膏血(こうけつ)に代えて手にした住環境をどう戻してくれるのか――。いきり立つ住民を札束で黙らせたのが、他ならぬ販売元の三井不動産レジデンシャル。そのうえ三井は、問題が公になってからというもの、記者会見をしていないのである。

「三井といえば業界でもトップ企業ですから、自分たちの過ちや姿勢を示すべき」

 と嘆息するのは、「榊マンション市場研究所」主宰の榊淳司氏である。危機管理コンサルタントの田中辰巳氏がこれを受けて、

「住民への説明が優先するのは当然として、三井の他の物件に住んでいる人たちへのメッセージも必要。だから記者会見を開く必要があるのです」

 としたうえで、こう解説する。

「三井には“売った責任だけがある”というような声も聞こえてきますが、そんなことはありません。三井住友建設という業者を選定した責任があるし、それにその仕事をチェックし、監督する義務があったのです」

 ともあれ、三井が優先させた10月31日の住民説明会のあらましを振り返っておこう。新横浜プリンスホテル5階の宴会場で開かれた会には、住民約700人が集った。

「時間は午後6時半から10時までの3時間半。最初の30分は藤林(清隆)社長から、全4棟計705戸の建て替え計画、1戸あたり一律300万円の慰謝料、仮住まいの家賃負担などについて提案がありました」

 と話すのは、出席した主婦のひとり。その後は質疑応答に入ったのだが、住民からの質問が途切れることはなかったという。

「質問が集中したのは、『300万円の根拠』なのですが、“根拠はない。社会的な情勢を鑑みて”と答えるばかりだったですね」(同)

 その口ぶりから察すると、三井には大いに不満があるようで、

「引っ越そうにも、近辺で同じようなクオリティと広さを兼ねた物件がほとんどない。少しでも条件の良いものは他の住民の方が内見済みだったりして、“引っ越し先争奪戦”のようになっている。とにかく社長の態度には、“カネは払うから口は出さないで”といった高圧的な印象を持ちました」(同)

■2つのとうそう

 この点について、先の田中氏はこんな指摘をする。

「たとえば“建て替えを前提に”という三井の言葉遣いは完全に間違っています。正しくは、“お許しいただけるのであれば、建て替えを提案させていただきたい”。これでは、泥棒をした人間が、“お金は返しますよ”と胸を張っているのと同じです」

 さらに、

「危機に晒された企業は」

 と言葉を継いで、

「2つのとうそう本能に支配される。すなわち、『逃走』と『闘争』。前者は“私は知らなかった”と自分の責任から逃げる、後者は言い訳や反論をして批判とたたかおうとする。いずれも企業にとって何の得にもならないのですが、それがわからないところが本当に多い」

 三井を取り巻いているのは、いわば「逃走本能」というわけだ。

「実際にデータ改竄をした現場の人間が悪いとしても、被害者から見れば、売り主から施工業者まで全員が加害者。だからこそすべての関係者がそろって会見し、安心感を持ってもらうべきなんです。そうは言っても、これから会見を開いたってもう遅いでしょうけれど」(同)

 魚は頭から腐ると言うように、問われるべきはトップの思想と品格である。

「特集 杭打ち偽装が全国で感染爆発! 今から『自宅マンション』を点検できる完全ガイド」

週刊新潮 2015年11月12日号掲載

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