「東芝元社長」ら戦犯5人への請求額3億円に“安すぎる”の批判が出るワケ

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 財界総理を出した名門企業も、すっかり形無しである。不正会計問題で大揺れの東芝は歴代社長を含む戦犯5人に対し、損害賠償を求める提訴に踏み切った。ところが、請求額は、たったの3億円で……。

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 初代財界総理と呼ばれた石坂泰三、“行革の鬼”として知られる土光敏夫ら勇名を轟かせたかつてのトップの顔に、泥を塗るような不始末を仕出かしたのは間違いない。創業140年を迎えた今年、東芝は不正会計問題で会社に損害を与えたとして、歴代社長3人と当時の最高財務責任者(CFO)の元副社長2人に対し、3億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。

 その5人とは、西田厚聡元相談役(71)、佐々木則夫元社長(66)、田中久雄前社長(64)と、村岡富美雄(67)、久保誠(63)の元副社長だ。

 経済部記者が解説する。

「11月7日に行われた中間決算の記者会見の場で、東芝は、外部の弁護士3人からなる“役員責任調査委員会”の調査結果に基づき、5人を提訴したと発表しました。不正会計で被った損害額は、過去の決算を訂正するために発生した公認会計士への報酬や東京、名古屋の証券取引所に支払った上場契約違約金などから算出し、10億円超だと明らかにした。ですが、関与の度合いや支払い能力を総合的に考慮し、請求額は3億円に留めたと説明したのです」

■5人の問題点

 提訴された5人は、役員責任調査委員会から、細心の注意をもって職務を遂行するという“善管注意義務”に違反したことが認定されたという。

「まず、西田元相談役は、パソコン事業において、取引先との部品取引で利益を水増し計上した責任を問われた。佐々木元社長の場合は、アメリカの現地法人が電車用電装品を納入する際に損失引当金を積まなかったことや、パソコン、テレビ事業での損失を先送りしていた問題です。さらに、田中前社長は、発電所建設にかかわる工事原価の過小評価と、ETC設備工事における売上高と利益の水増しについて責任があると指摘されました」(同)

 そして、村岡、久保の元副社長2人は、CFOとしての監督責任を怠ったことが問題視されたのである。

■「オリンパス」「ライブドア」と比べても

 しかしながら、これまでに判明している1500億円超という莫大な利益水増し額と比べてみると、請求額があまりにも少ない、という批判が起こっている。

「不正会計の発覚に伴い、中間決算では904億円の営業赤字に転落し、株価も大幅下落で大勢の株主が大損を抱えてしまっている。それらのことを鑑みれば、到底、3億円という額が妥当であるとは言えません」

 と語るのは、経済ジャーナリストの山口義正氏である。

「4年前、オリンパスによる1178億円の損失隠し事件が発覚しました。会長、社長らが東京地検特捜部に逮捕されたうえ、会社側は当時の経営陣19人に対し、約36億円の損害賠償請求を行った。現在、係争中ではありますが、1人頭にすると、約1億9000万円です。一方、東芝は水増し額ではオリンパスを上回っているにもかかわらず、1人頭6000万円に過ぎないのです」

 他のケースも見ると、例えば、ライブドアの粉飾決算事件では、約363億円の損害賠償を請求された堀江貴文元社長が、株式など約208億円相当の資産を引き渡し、会社側と和解が成立している。

 さらに、三菱自動車のリコール隠し事件で、11億3500万円を請求された元会長ら6人が、合わせて1億円を支払うことで同じく和解。また、日興コーディアルグループによる不正会計問題では、元社長ら4人に対する請求額は31億円だったものの、結局、3億円の賠償金で解決が図られた。

 確かに、会社側からの請求額という点からすれば、東芝の場合は、いかにも控えめな数字である印象は否めない。

「特集 たった3億円で許される『東芝元社長』ら戦犯5人の資産目録」

週刊新潮 2015年11月19日号掲載

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