[マンション偽装]地盤マップとボーリングデータでわかった 「東武伊勢崎線沿線は業者泣かせ」

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 次々と発覚する「杭打ち偽装」を受け、自宅マンションの再点検を考える方もいるだろう。しかし、地盤に正しく「杭」が刺さっているかどうか、一般の消費者が見抜くのは至難の業。「杭は長ければ長いほど折れやすい」「20メートル以上深く打たなくてはいけない所はいちおう疑ったほうがいい」との専門家の意見を基に、首都圏主要地区の地盤の深さを調べた。

 参考にしたのは、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県が公表しているボーリングデータである。以下「メートル」として記すのは、「N値(地盤の固さ)=50」の地盤が「厚さ5メートル以上」ある場所(鉄道の駅周辺)の深度。ここまで掘って杭を打てば、高層のマンションやビルを建てることが出来るが、意外なのは、都心でも支持層まで20メートル以上の深さがある場所が沢山あることだ。

 もちろん、支持層が深いからと言って、そこに建っているマンションが危険というわけではない。

「たとえば湾岸エリアでは支持層まで深いため、“杭打ちをしっかりやる”というのがゼネコンの共通認識になっているのです。支持層の深いところでのマンション建設はそれなりの耐震設計がなされていますから、むしろ、その深さに合った工事がきちんとなされているのかが大事なのです」(不動産コンサルタントの長嶋修氏)

■「立川駅周辺」「豊洲」「新浦安」

 そのことを踏まえて、改めて首都圏を俯瞰すると、大まかにいって山手線から西側(JR中央線側)が地盤も固く支持層が地表に近い。

「このあたりは、大昔、富士山や箱根山の噴火で放出された火山灰が偏西風に乗って流れ着き、それから1万年以上の長い時間をかけ鉄分が酸化して赤黒い土の層を形成しています。いわゆる“関東ローム層”と呼ばれるものですが、支持層を覆っている土も粒子同士が強固にくっつきあって安定した地盤になっているのです」(建築エコノミストの森山高至氏)

 武蔵野台地にあるJR立川駅周辺だと、わずか2メートル掘るだけで固い支持層が現れる。そのせいか、このあたりの建設現場では、「杭打ち」そのものが必要ないところもある。つまり、偽装が起きる確率が低いといえる。

 もちろん例外もあって、先日、杭打ち偽装が発覚した東京・八王子市の南大沢地区のあたりは30メートル近く掘らないと支持層に達しない。山手線の西側だからといって支持層がすべて浅いとは限らないのだ。

 反対に、東京の湾岸エリアから千葉にかけては40~50メートル掘らないと支持層が顔を出さない場所が多い。埋め立て地が多いせいだ。タワーマンションが林立することで知られるオシャレなエリア「豊洲」も深さ41メートル、東京ディズニーランドに近い千葉の高級住宅地「新浦安」は実に55メートルという深さだ。

■「溜池山王」「川口」「大宮」

 一方で、高台にあるからといって安心するのも早計だ。

 地質調査会社「環境地質」の稲垣秀輝社長によると、

「一見、都心の台地に見える地域でも、その昔、沢や沼地が深く入り込んでいた場所があります。たとえば地下鉄の『溜池山王』あたりは、その名のとおり池があったため、支持層がかなり深いところにある。また、神田川や目黒川の両岸は柔らかい地質と硬い地質が入り乱れていて支持層が何メートル下にあるのかさえ判断しにくい。周囲の地盤が良いからといって安心はできないのです」

 海岸から遠く離れた内陸部であっても意外に支持層が深い場所もある。埼玉県の川口(39メートル)、大宮(50メートル)などがそうだ。埼玉県東部の東武伊勢崎線沿線の一帯も、マンション業者泣かせの場所として知られており、支持層に達するまで30~40メートル掘らなくてはならない。

 そして、もうひとつ、重要なポイントは、日本の地盤研究者たちが参加している学術組織「地盤工学会」の中村裕昭理事が指摘する「起伏」である。東京都内でも『パークシティLaLa横浜』のようなデコボコの地盤は少なくないが、それを確かめるには実際にボーリングしてみないと分からない。

■販売時のパンフレットを読み取る

 だが、マンション選びのノウハウに関する著書を多数出している建築家の碓井民朗氏が言う。

「もし、マンションの販売時のパンフレットや竣工した時の資料が手元にあるのなら、杭の長さが“10~20メートル”といった表記になっていないか注意するべきです。これは、同じ建物でも、ある地点は深さ10メートル、別の地点は20メートルの杭が使われていることを意味する。つまり、傾斜地に建っているということです。こういう物件は気を付けたほうがいい。地盤が傾斜していると、いざ杭を打とうとしたときに事前のボーリング調査よりも支持層が深い位置だったりすることがあるのです」

 以上、地盤の読み取り方を述べてきた。

 読者のなかには、ここに掲載されていない場所に住んでいる人も多いはずだ。だが、その場合でも、インターネットで比較的簡単に調べることができる。自治体が公表している「地盤マップ」からは自宅近くの地盤の深さを調べることができるし、民間の「地盤カルテ」、「地盤サポートマップ」といった無料のサイトを検索すると、地震の際の揺れやすさや、周囲の土地が液状化する危険性についても知ることができる。

 ただし、今発覚している偽装事件でわかったことは、マンションを売った販売業者やゼネコンが、時として大切な情報を隠してしまう、ということでもあった。

「特集 杭打ち偽装が全国で感染爆発! 今から『自宅マンション』を点検できる完全ガイド」

週刊新潮 2015年11月12日号掲載

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