[マンション偽装]安心できる“杭打ち”の深さは何メートル?

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 横浜のマンションから始まり、全国的な拡大を見せている「杭打ち偽装」。今回、図らずも偽装事件の舞台回しに使われた「杭」とはどのようなものなのか。

 構造設計の専門家が説明する。

「一般的な杭は、コンクリートや鉄で出来ており、直径30~60センチの太さがあります。マンションを支えるだけあって1本当たり100トン以上の重さに耐える(支持力)ものもある。よく使われる既成杭は、支持層に達すると、さらに1メートルほど掘り下げて、しっかり刺さった状態にするのです」

 その長さは様々だが、実際には法律上の“限界”がある。

「あまり知られていませんが、杭というのは、道路交通法上の積載制限(長さ)があって、建設現場に持ち込める長さが1本15メートルまでなのです。それ以上長いとトラックに積んで公道を走ることができません」(同)

 支持層まで15メートル以上の深さがあるところでは、杭同士を現場で溶接してつなぎ、長いものを作成する必要がある。

「しかも、全体で2カ所しか溶接してはいけないという決まりがあって、事実上、45メートルまでしか杭は伸ばせない。それでも支持層に届かない場合はどうするのか。マンションの地下空間を大きめに作ることで基礎そのものを深くして、45メートルの杭のてっぺんに繋げるのです」(同)

 支持層が深く、なかなか杭が届かないところでは、こんな“苦肉の策”が講じられているのだ。それはもちろん、コストと工期にもはね返ってくる。

 ちなみに、深さ45メートルといえば、ビルの高さで13~14階に相当する。地震で液状化現象が起これば、まるで嵩の高いプリンの上にマンションが乗っているようなもの。「杭」はそれを支える唯一の構造物だが、地盤に正しく刺さっているかどうか一般の消費者が見抜くのは至難の業である。それならば、我々が今住んでいるマンションを再点検するために、まず、知っておくべきことは何なのだろうか。

■“20メートル”

 マンション選びのノウハウに関する著書を多数出している建築家の碓井民朗氏が言う。

「それにはまず、地盤を知ることです。マンションは多くの人にとって一生に一度の高い買い物ですから、“君子危うきに近寄らず”が基本中の基本。杭打ちに関していえば、20メートル以上深く打たなくてはいけない所はいちおう疑ってみたほうがいい。そもそも杭というのは上からかかる建物の重さには強いのですが、水平方向からの力には弱い。大きな地震で横揺れが来た場合、杭に“水平応力”が働き、途中でポッキリ折れてしまう可能性がある。それも、長ければ長いほど折れやすいのです」

 防災・危機管理ジャーナリストで「まちづくり計画研究所」の渡辺実所長も警告する。

「実際、過去の大地震では、液状化現象が起きており、建物の杭も折れてしまっていたケースがありました。この経験からも、杭の長さはできるだけ短い方がいい。たとえば、原子力発電所は、杭打ちをせず支持層まで掘り下げてから、そこに直接建屋を作る。地震による倒壊を避けるためそこまでやるのです。支持層まで深くても、杭の太さや本数で深さをカバーできるケースもありますが、それでも安心な深さは20メートルぐらいと言われているのです」

「特集 杭打ち偽装が全国で感染爆発! 今から『自宅マンション』を点検できる完全ガイド」

週刊新潮 2015年11月12日号掲載

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