トヨタ「脱エンジン宣言」自動車メーカーは生き残れるか

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 1935年、トヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎は、A1型乗用車の試作に成功する。ガソリンを燃料にしたエンジンが唸りをあげて、後の量産化の礎となった。

 それから80年。今や販売台数で世界トップの座に君臨するメーカーに成長したトヨタは、2050年までにエンジンのみで走る自動車の生産をほぼゼロにすると宣言した。10月14日の説明会で、トヨタの内山田竹志会長は“地球環境は日々悪化している。20年、30年先を見据えたより高い水準の新たな挑戦が必要と考えた”と語り、エンジンの要らないエコカーに専念する決意を示したのだ。

 背景には、排ガス規制に厳しい欧州において今後10年間、現行のエンジン車では対応できない基準が段階的に採用されるという事情がある。環境先進国を掲げるノルウェーでは、税制面の優遇もあり、今年4月から6月に販売された新車の3台に1台が電気自動車(EV)。EV「リーフ」を擁するルノー・日産は、発売から僅か5年で世界累計26万台を販売して、シェア1位に躍り出ているのだ。

「会見では伊勢清貴専務役員も、“エンジン車が無くなるのはメーカーにとっても天変地異だ”と認めた上で、販売の主力を『プリウス』に代表されるハイブリッド車(HV)、水素をエネルギーとする燃料電池車(FCV)の『ミライ』やEV、家庭でも充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)に絞ると明言しました」(経済部記者)

 クルマの心臓部であるエンジンは、一朝一夕には開発できないため、自動車産業への新規参入の障壁と言われてきた。それだけに、トヨタが“脱エンジン”を宣言した衝撃は大きい。

■家電メーカーも参入

 これを機に早晩、自動車業界に危機が訪れると警鐘を鳴らすのは、業界分析に定評のある百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏だ。

「エンジンがモーターに、ガソリンが電池にとって代わることで、既存の自動車メーカー以外でも簡単に完成車が作れる時代が来る。モーターの分野では、すでに台湾のTECO社の製品が台頭しています」

 エコカーに欠かせない電池でも、パナソニックや日立、東芝といった国内大手の家電メーカーが次々と参入しているという。パナソニックの津賀一宏社長は、18年度までに自動車関連事業の収益を全体の約2割に押し上げる目標を掲げており、“将来は自動車メーカーになるかもしれない”と言うほど鼻息は荒いのだ。

「エコカーと共に開発が目覚ましい自動運転技術では、グーグルやアップルといったIT企業も進出してしのぎを削っています。パソコン業界では、CPUやOSの重要部品をインテルやマイクロソフトが押さえて、完成品メーカーより高い収益性を確保して潤いました。同様に、自動運転がクルマヘと本格的に実用化されれば、ソフトウェアとしての人工知能(AI)を開発した企業が、既存の自動車メーカーに技術を提供して、高い収益を得る可能性は大いにあるでしょう」(同)

 一方、異業種の新規参入に懐疑的なのは、自動車評論家の国沢光宏氏だ。

「既存の自動車メーカーと、家電メーカーとでは安全に対する考え方がまるで違う。重要になるのは車体を製造する技術ですが、衝突安全性についてのクオリティーや精度をすぐに真似できるかといえば、そう簡単な話ではありません。電気自動車メーカーとして注目を集める米国のテスラモーターズでも、トヨタの支援を受けて立ち直った過去を持っていますからね。長いスパンでみても、異業種が新規参入して自動車メーカーを脅かすことは、99%あり得ないと思います」

 自動車に使う内燃エンジンの実用化から1世紀。来たる“大転換”の覇者は誰になる?

週刊新潮 2015年10月29日号掲載

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