「安倍総理」がハマった「ハーバード発」4-7-8呼吸法

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 安保法案、“総裁選騒動”と、息つく暇もない日々を過ごす安倍晋三総理(60)。体調が気になるところだが、彼は今、ある健康法にハマっている。その名も、ハーバード発の「4-7-8呼吸法」。息が詰まる国会を、この呼吸法で生き抜いているというのだが……。

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息つく暇もない日々を過ごす安倍晋三総理(60)

 9月3日、野田聖子前自民党総務会長は、55歳の誕生日を迎えたこの日も、総裁選出馬に向けて水面下で激しく動いていた。しかし、推薦人集めは難航。酒豪として知られ、普段は健康が売りの野田氏だが、気分がすぐれないバースデーとなったことは想像に難くない。実際、5日後、彼女は出馬断念へと追い込まれた。

 一方、迎え撃つ安倍総理は、野田氏とは対照的に健康不安を指摘され続けてきたが、この日は上機嫌で「宴」に参加していた。午後6時半過ぎから、安倍総理の応援団である鳩山邦夫元法相率いる「きさらぎ会」の懇親会に出席していたのだ。「健康」と「気分」のねじれ現象……。

 何はともあれ、懇親会で挨拶した安倍総理は、こんな話を明かした。

「私は今、『4-7-8呼吸法』という健康法をやっています。これをやると落ち着けるんですね。この呼吸法で、国会での野党からの追及にも耐えています。もっと前から知っていれば、私は野次を飛ばさなくても済んだかもしれない」

 こう笑いを誘いながら、自らの呼吸健康法を披露してみせたのである。官邸関係者曰く、

「潰瘍性大腸炎の持病を抱え、常に健康不安説が流れる安倍さんとしては、それを一掃したい狙いもあって、自分の呼吸健康法を語ってみせたんでしょう。なにしろ、『週刊文春』(8月27日号)では吐血報道が出たくらいですからね(安倍事務所は『全く事実無根』『悪質極まりない』と抗議)。実際に総理を近くで見ていると、夏風邪はひいたものの、夏休みには周りが止めるなか、雨が降っているにも拘(かかわ)らずゴルフをしたりして、とりあえず今の安倍さんは健康に見えます」

 いずれにせよ、安保法案の先行きに神経を尖らせる緊張状態が続くなか、我が国のリーダーは呼吸法で健康を維持しているというのだから、一体、どんなものなのか、否が応でも気になるところである。

『呼吸はだいじ』などの著書がある、帯津三敬病院(埼玉県川越市)の帯津良一名誉院長が解説する。

「『4-7-8呼吸法』は、ハーバード大出身で健康医学研究者のアンドルー・ワイル氏が20年ほど前に提唱しました。まず口から完全に息を吐き切った後に鼻から4秒間、息を吸い、7秒間、息を止め、8秒間かけてゆっくりと口から息を吐き出す呼吸法です。ワイル氏は、西洋医学と代替医療をあわせた統合医学のオピニオン・リーダーとして知られています」

 先に紹介した懇親会での安倍総理自身の発言から、もう少しこの呼吸法について補足しておくと、

「これを最低、4回以上繰り返すと、心身ともにリラックスできる。『4-7-8呼吸法』を修得すると、床に就いてから1分で眠ることも夢ではないみたいですね」

 安倍家関係者は、

「ワイル氏が来日した際、安倍さんは食事をする機会があったそうで、その時、彼から直々に『4-7-8呼吸法』を教わり、最近、実践しているんです」

■気になる「7」

 そもそも、我々が日々、生活していくにあたって、何気なくしている呼吸にどれだけ気を使うべきなのか。一生涯で6億回から7億回もすると言われるその呼吸に関して、山野医療専門学校副校長の中原英臣氏(医学博士)が説明する。

「人間の筋肉には、意識的に動かす随意筋と無意識に動く不随意筋の2種類がありますが、呼吸は両方の側面を持っています。普段は無意識で行っていますが、意識的に息を止めることもできる。呼吸だけの特性とも言え、これは、呼吸が健康と深く結びついている証(あかし)と言えるでしょう」

 呼吸リハビリテーションの専門家で、文京学院大学保健医療技術学部の柿崎藤泰教授が後を受ける。

「現代社会において、特に都心で暮らし、慌ただしい生活を送っている人たちの中には、浅い呼吸をしている人が多い。ストレスなどで交感神経が刺激を受けると、呼気、つまり吐く息よりも、吸気、すなわち吸う息のほうが多くなります。結果、長く息を吐くことができず、体内に空気が溜まる。この量を残気量と呼びますが、これが増えると苦しさを覚えると同時に、呼吸困難になる危険性が生じます」

 さらに、浅い呼吸を続けると、

「呼気の不足を呼吸の回数で補おうとする。しかし、呼吸も筋肉運動なので、回数が増えれば疲れやすくなります。また、姿勢が悪いと背中が丸まり、お腹や胸が圧迫され、深い呼吸の妨(さまた)げとなりますが、姿勢を良くしようとすると、やはり交感神経が刺激されて、結局は浅い呼吸につながりかねない。とにかく、『努力しないこと』が、深い呼吸をする基本です」(同)

 ただ息を吸い、吐くだけのことでも、「正しい呼吸」となると意外に難しいようである。

「理想的な呼吸時間の比率は、『吸気1』に対して『呼気2』とされています。長く息を吐くことで副交感神経が刺激され、リラックス効果が生まれて、集中力が高まるんです。安倍総理がやられているという『4-7-8呼吸法』も、吸気と呼気の割合が1対2になっていますね」(同)

 一方、呼吸法教室を開いている雪谷大塚クリニック(東京都大田区)の雨宮隆太院長は、

「息を吸うと脈が速くなり、血圧が上がる。他方、吐くと脈は遅くなり、血圧は下がる。したがって、息を吐く時間を長くするのは健康上、良いことです」

 としながらも、

「気になるのは『7』です。息を止めると力が入りますから、血圧が上がってしまい、いくらその後に『8』吐いても無駄なような気がするのですが……。いずれにしても、息を長く吐くと脳内物質のセロトニンが分泌され、落ち着く効果はあるでしょうね」

■歩きながら「3呼1吸」

 この「4-7-8呼吸法」に限らず、世の中には呼吸健康法が溢れている。その一端を紹介すると、

「戦前には、『逆腹式呼吸』というものが流行(はや)りました。普通は、息を吸うと横隔膜が下がりますが、この呼吸法は逆に横隔膜が上がり、それが健康に良いとされ広まったんです。しかし、普通と逆のことをするわけですから、果たしてどんな効果があったのか、医学的に考えると疑問です。さらに遡ると、明治時代には『調和道丹田呼吸法』というものが流行しました」(雨宮院長)

 この調和道丹田呼吸法を今も実践しているのが前出の帯津氏だ。

「足を肩幅に開いてリラックスし、2回、息を吸って吐くことを繰り返す。そして、3回目に上体を前に傾けながら息を吐き切る。こうすることによって、力むことなく息を吐き出せます。これが、調和道丹田呼吸法の一つであり、座った体勢でやっても効果があるのでお勧めです」

 加えて帯津氏は、世間ではあまり「良い事」とはされていないある行為も、自然に息を深く吐き出せるとして推奨する。それは、

「溜め息です。誰でも力まずに、無意識に息を吐き切れる方法であり、人間に備わった天性の呼吸法と言うことができます。大いに溜め息を吐(つ)くべし、ですね。この他にも、歩きながらできる呼吸法もあります。徒歩のリズムに合わせて、3回息を吐き、1回吸う。これを『3呼1吸』と言い、やってみると分かりますが、歩行リズムにちょうど合い、無理なく気軽にできるのが特徴です」

 また、医師で医療ジャーナリストの森田豊氏は、

「深い呼吸、つまり深呼吸をすることで、仕事や運動の効率が上がるのは間違いありません。それはトップアスリートを見ていても、プレーの前に深呼吸をしている選手が多いことで分かります」

 と、やはり深い呼吸が大事だとした上で、

「私自身、この10年ほど呼吸が浅いと感じていたため、週に3時間、ヨガをするようにしています。息を止めることなく、深呼吸しながらの運動ができるので、仕事の疲れが取れる。中でも、ウジャイ呼吸法といって、呼吸の際、空気で咽喉(のど)の奥から摩擦音を出すようにお腹と咽喉を引き締めるやり方があり、寝つきの悪い時に、これを10回から15回繰り返すと、質の良い睡眠が取れると聞いています。ヨガと出会っていなければ、今頃、私は浅い呼吸のままで緊張状態が続き、心筋梗塞にでもなっていたのではないでしょうか」

 医師の命をも救ったヨガの力は想像以上のもののようだが、国立病院機構東京病院の大田健院長(呼吸器内科)は、ヨガまでいかなくても、

「深呼吸の延長線上で、体内の空気を入れ替える意味では、歌を歌ったり、吹奏楽器を吹くのも有効な健康法です」

 最後に、呼吸器疾患を中心に扱う打越メディカルクリニック(神奈川県横浜市)の打越暁院長が締め括(くく)る。

「『4-7-8呼吸法』は、息を長く吐くことができ、且(か)つ一定のリズム運動であることから、心と身体の健康にとても良いことだと思います。ただし、はじめから何秒と決めるのは、初心者にとってはなかなか難しく、とりわけ7秒間、息を止めるのは意外と苦しいものです。自分に合ったりズムを見つけてください」

 呼吸法を会得するのも、一筋縄では行かないようで……。「床に就いて1分で就寝」の域に達するまで、安倍総理にはまだまだ息を抜けない訓練が必要そうだ。

週刊新潮 2015年9月17日号掲載

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