「男児漂着」写真が臓腑を抉ったEU「難民問題」の出口

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 名月を取ってくれろとなく子哉(かな)――その幼い我が子を亡くした小林一茶は、この句を含む句集『おらが春』の編纂を中断、未完のままに世を去った。

 2日、エーゲ海に面したトルコのリゾート地ボドルム発の写真が世界中に衝撃を与えた。赤いTシャツに濃紺の短パン姿の幼児が、ビーチの砂地に柔らかな頬を埋め、波打ち際で眠るように俯(うつぶ)せている写真である。

「シリア難民のアイラン・クルディ君(3)です。『イスラム国』の脅威から、ギリシャを目指す家族とともに海を渡ろうとしてボートが転覆、亡骸が浜辺へと漂着したのです」(国際部記者)

 そばには母親と5歳の兄の遺体。ひとり生き残った父親によれば、密航は3度目の試みだったという。

 地中海での水難事故による難民の死者は今年8月までですでに2000人を超えているが、この写真にEU各国が反応した。英・キャメロン首相は「深い衝撃を受けた」「一人の父親として心を動かされた」と発言、イタリアのレンツィ首相が「胸が締めつけられる」と言えば、フランスのオランド大統領は「責任を痛感した」。ドイツは難民80万人を受け入れると表明。

「掌返しと言ってよい反応ですよ。ドイツではこの数週間前の世論調査で、54%の人がメルケル首相の難民受け入れは不十分だと答えていましたし、英国はシリア難民を216人しか受け入れておらず、今年5月、EU全体で難民16万人を受け入れてほしいという国連の計画への参加も拒否しています。フランスの港町カレーでは、難民申請が通らないために英国に渡ろうとする人々がひしめいています」(前出記者)

 イギリス在住のジャーナリスト木村正人氏も言う。

「そもそもが難問です。地中海経由でEUに渡った難民は、昨年の22万人に対して今年1月から8月までですでに30万人を超え、膨大です。彼らを受け入れた場合の経済的負担や社会的軋轢を考えると、いっそEUを離脱せよという意見も英国内では出ています」

 地中海沿岸各国に押しつけてきた問題に、ようやくEU全体が直面した格好だ。

「しかも、難民は全世界で6000万人。EUだけの問題ではない」(同)

“名月”よりはよほど手が届くはずの“安住の地”さえ得られぬ幼子が無数――。

週刊新潮 2015年9月17日号掲載

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