「高遠菜穂子」がボランティアを続けるイスラム国の危険地帯

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 首尾一貫していることだけは間違いない――。2004年にイラクで武装勢力に拘束された高遠菜穂子さん(45)は、世間の厳しい批判に晒された。が、今も彼の地で医療支援のボランティアを続けている。先ごろ帰国した彼女は護憲団体主催の講演会に登場し、イスラム国が跋扈する中東の危険な実態を明らかにした。

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「自己責任」と、国中から後ろ指をさされてから11年。イラクで活動を続ける高遠さんは、7月31日、神奈川県横須賀市の多目的ホールに姿を現した。講演会の主催者が言う。

「テーマは『イラクで見つけた憲法九条』で、集団的自衛権の限定行使を容認した安保法制によって、今後は自衛隊が戦場に行くようになる。日本が戦争をする国になって良いのか。加えて、化学兵器の使用やテロが横行する現地の惨状を一番知っている方ということで、お招きしました」

 講演の中身は多岐にわたるが、彼女が拠点としていたイラク中部のファルージャにおける活動に関する話を要約すると、

「12年間、イラクでの医療支援活動を通して現地を見守って来た。13年はファルージャの総合病院で寝泊まりしながら、医師らと共に子どもたちの世話に当たった」

「イスラム国は異教徒に改宗を迫り、拒否するとすぐに殺害する」

「イラクの子どもたちは、イスラム国による攻撃だけでなく、政府軍の空爆でも大勢が殺されている」

「イラク政府は一般人を不当に拘束し、逮捕した女性をレイプするなど統制が取れていない。軍はそれに抗議する市民のデモ隊に発砲して、多数の死者まで出している」

「いまやイラク国民は、イスラム国の恐怖と政府の蛮行の狭間で苦しんでいる。その結果、かつて自国の都市を破壊して人々を殺した、本来は敵であるはずの米軍を頼りにするまで追い込まれた状態にある」

 これまで、いかに自身が超危険な地域で活動してきたかについて、延々披露したのである。

■「無理です、無理です」

 話しぶりは、立て板に水。徐々にヒートアップする高遠さんの話は日本の安保法制にも及び、PKO協力法の改正で可能となる自衛隊の「駆けつけ警護」について触れる場面もあった。これは、民間人や他国の軍隊が危険に晒されている場所に自衛隊が出向き、武器を使用して警護や救出に当たるというもの。が、高遠さんは、

「武装ゲリラは間違いなく、百戦錬磨の米海兵隊より自衛隊を狙いますね」

 と、断言。さらに武器使用基準の緩和についても、

「自衛隊が反撃する時に、バァーッと撃っていたら民間人を巻き添えにする可能性が非常に高いと思う」

 とくに根拠も示さず述べるのだった。安保法制に反対する立場というのは分かったが、ご自身が再び武装勢力に拘束されたり、危険にさらされる可能性はないのだろうか。講演を終えた高遠さんに話を伺うと、

「無理です、無理です。これまで何度も、真面目に、真摯に、誠実に答えたけども、酷かったからもう無理です」

 どうやら04年のバッシングがトラウマになっているご様子。それでも己を曲げずに戦火の絶えない中東に通い続ける高遠さんは、周囲も心配しているのではないか。そこで、北海道に住む母親に尋ねると、

「私らは、あの子のやっていることは全然分かりませんので」

 と、半ば諦めたように言うばかり。それでも高遠さんは、今後も砂漠の荒野を目指すのだろうか。

「ワイド特集 女たちは荒野をめざす」より

週刊新潮 2015年8月13・20日夏季特大号掲載

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