放置すれば昭和40年不況の二の舞!? 「東京五輪」宴の後の大不況に備える!――西所正道(ノンフィクション・ライター)

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 建設ラッシュに沸き、外国人観光客が来てホテルや飲食店は潤い、日本全体が好景気に包まれる――。5年後の東京五輪を前に、そんな「皮算用」をして浮かれること勿(なか)れ。ノンフィクション・ライターの西所正道氏が、過去の「五輪後不況」をもとに警鐘を鳴らす。

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 歴史は繰り返されるのか。

 2020年の東京五輪に関して、差し当たり新国立競技場の建設を巡るドタバタが耳目を集めている。しかしながら、懸念はそればかりではない。実は、大きな不況が五輪を機に日本を襲う可能性があるのだ。実際、

「一般的に」

 として、第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏は説明する。

「オリンピックが開催される前までは、インフラ整備などの特需効果がありますから景気がよくなります。が、閉幕が近づくと特需部分が剥落(はくらく)する分、反動がきて、景気が悪くなるのです」

 インフラなどが未整備な発展途上国ほど、予算規模が大きくなり、その反動による景気の落ち込みもひどくなるという。

 むろん、1964年の東京五輪を経た日本も例外ではなかった。五輪のわずか1年後にやってきた、他ならぬ「昭和40年不況」である。

 当時の五輪予算は大会運営費、競技施設整備費、さらに東名・名神高速道路、東海道新幹線、都内の地下鉄、首都高などのインフラ建設費を含めると、総額は約1兆円に達した。当時の国家予算は3兆2554億円だったから、3割近い投資規模になった。その分、景気は浮揚したが、「山高ければ谷深し」という相場格言にあるように、五輪閉幕にあわせて、景気は右肩下がりに推移していったのだ。

 まず開催前年の63年に1738件だった倒産件数が、開催年にはすでに2倍以上の4212件となり、その翌年には6141件を記録。倒産企業の負債総額もこれに比例して、概算で1695億円→4631億円→5624億円と悪化の一途を辿った。

 大企業もこの「不況圧力」に抗(あらが)うことができず、65年に山陽特殊鋼が500億円という戦後最大級の負債を抱え倒産、山一證券も事実上の経営破綻に追い込まれた。

 経済アナリストの菊池英博氏が解説する。

「国内が急速に建設不況になり、鉄鋼需要の減少によって山陽は倒産しました。典型的なオリンピック型不況と言えます。その直後から株価も落ち込み、山一の経営危機の引き金になったのです」

 経済学者の武田晴人氏の著作『高度成長』(岩波新書)によれば、山一證券本支店には、連日1万人を超える顧客が殺到し、1週間で177億円の取引口座が解約。神戸支店では投石によって店舗のガラスが割られ、広島支店では顧客整理のために警官が出動する事態となったという。

 もっとも経済の停滞は、65年秋に早くも底を打つ。

 菊池氏がそのからくりを明かす。

「当時の福田赳夫蔵相がとった、地方の中核都市に対する公共投資が功を奏したのです。発行した建設国債がみごとに活かされた。いまは公共投資を否定する傾向があるが、当時は公共投資がいざなぎ景気に結びつく基礎をつくったのです」

 65年11月から70年7月まで、57カ月間続いたこの好況期のことが安倍晋三首相の念頭にはあるのかもしれない。一昨年、彼はニューヨーク証券取引所でこうスピーチしているのだ。

〈(64年の)東京オリンピックは日本に高度成長時代をもたらしました。日本は再び7年後に向けて大いなる高揚感の中にあります〉

 だが5年後の五輪は、64年と違って、何から何まで新しいものを作るというわけではない。なにしろ「コンパクト五輪」をコンセプトに掲げているのだ。

 予算規模は1兆円前後になると見られ、国家予算の1%程度にすぎない。首都高速道路の補強や羽田空港新滑走路、JR山手線新駅などのインフラ整備もあるにせよ、前回五輪とは経済へのインパクトが格段に違う。

 しかるに、安倍首相の高揚ぶりは何なのか。

 エコノミストの高橋乗宣氏はこう指摘する。

「そもそも、日本は2022年から団塊の世代が後期高齢者の仲間入りをする『超高齢化時代』に直面します。下落し続ける国力を、オリンピック需要だけで持ち上げることは到底できません。このまま無為無策ならば、日本経済はオリンピック後に戦後最大の危機を迎える。そのことがオリンピックのお祭り気分によって覆い隠されているとしたら、大問題です」

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