100人で1人を囲んで恫喝! 締め出しを強要する「記者クラブ」の問題点

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記者クラブの排他性

 ジャーナリズムについて論じられる際、いまだに問題とされるのが「記者クラブ」制度である。記者クラブ制度とは、簡単にいえば主に官公庁に記者室を間借りして、新聞、通信社、テレビの担当記者が常勤するシステムのこと。

 この制度の問題点はいくつか挙げられるが、その一つが「排他性」である。多くの場合、記者クラブに加盟していない社の記者が会見などに出席することを、クラブ加盟社は嫌がる。もしくは拒否をする。

 本来、官公庁など公の機関が発表する内容を特定の会社だけが聞く権利はないにもかかわらず、会見にフリーの記者が入ることを拒否され、排除されてしまうのだ。最近はさすがにかなり会見の場もオープンになってきたので、完全に排除するといったことは少なくなってきたようだが、理不尽な締め出しを喰らった経験を持つジャーナリストは少なくない。

 その「締め出し」とはどのようなものだったか。

 桶川ストーカー事件や足利事件の報道で知られる清水潔氏は、『騙されてたまるか』の中で、かつて経験した理不尽すぎる「締め出し」の様子を振り返っている。

会見を仕切る記者

 1992年、「FOCUS」のカメラマンだった清水氏は、当時の埼玉県知事が引退することを聞き、その引退会見の撮影に出向く。

 県庁の広報課を訪ねると、スーツ姿の若い男性が出てきて冷たく言い放った。

「会見は記者クラブ員だけになります」

 またか、と思いながら、清水氏は

「後ろから写真を撮るだけだから問題ないでしょう」

 と言いながら男に名刺を渡した。相手は渋りながら自分の名刺を出してきた。

 驚いたことに、なんとそれは通信社の名刺だった。彼は県庁職員ではなく通信社の記者で、たまたまクラブの幹事を務めていたのである。

 なぜ通信社の社員が、公の会見に出席する人間を選別できるのか。清水氏は食い下がったが、相手は「クラブで決めたことなんで」と言うばかり。

 話にならない、と無視して会場に向かうと何百人も収容できるホールで、ガラガラの状態。それなのに先ほどの男が前に立ちふさがってきた。騒ぎはさらに大きくなっていく。以下、『騙されてたまるか』から引用しよう。

100人で恫喝

「一通信社が他社の取材行為に采配を揮うという。何とも解せない話だ。しかも当時の私は、たまたまだが『埼玉県民』だった。つまり有権者であり、納税者なのだ。

 他の雑誌記者たちは、大人しく廊下に出て行ったが、私はそのまま居座った。すると、『出て行け!』の大合唱が始まった。

 見回すと、総勢百人近くのクラブ員に囲まれていた。

 その昔、二百人以上のヤクザの団体様に囲まれても撮影を続けたこともある私だ。サラリーマンの烏合の衆などに動じるはずもない。知らぬ顔でなおも居座っていると、TBSのカメラマンが大声を張り上げた。

『がたがた言わずに、出て行け!』

 なにゆえ『東京放送』が『埼玉県民』に『出て行け!』と言うのだろうか。それに私も視聴者の一人なのだぞ……。」

 この騒ぎの最中、知事が入室してきた。すでにテレビは生中継を始めている。そこで件の通信社の記者も「それではアタマ5分だけ写真撮影を許可します!」と声を張り上げた。すると、それまで追い出されても黙っていた他誌のカメラマンも入室してきた。清水氏は思わず、

「お前らさあ、戦わずして取材するなよ」

 とぼやいてしまったという。

騙されてたまるか

 前述の通り、今はもう少しオープンになっているとはいえ、それでも記者クラブの問題点がなくなったわけではない。清水氏は同書の中で次のように指摘している。

「記者クラブは官公庁内に置かれ、その食堂で役人と『同じ釜の飯』を食う記者たち。そうした関係性の中で提供される情報が次第に『御用報道』を招いていく」

「『自分の頭で考える』という基本を失い、『○○によれば……』という担保が無ければ記事にできない記者たち。それは結果的に、自力で取材する力を衰退させ、記者の“足腰”を弱らせていくはずだ」

 そうした報道にどう向き合えばいいのか。その答えの一つが「おかしいものは、おかしい」という気持ちを持ち、常に「騙されてたまるか」という姿勢で情報に接することだ、と清水氏は語っている。

デイリー新潮編集部

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