【元少年A『絶歌』】「犯罪者」が手記で大儲けする日本に足りない「サムの息子法」

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 賛否が渦巻く元少年Aの手記刊行。『絶歌』が、回収どころか増刷されたのを受け、騒動の余波は広がるばかりだ。そんな中、俄かに注目され始めた法律がある。犯罪者が本を出版した場合、その印税を被害者や遺族が容易に差し押さえられるようにする米国の法律、「サムの息子法」だ。

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 精神の崩壊を防ぎ、自己を救済するために、元少年Aは“禁断の書”を著したという。その内容には、類似犯罪の再発を防止するような教訓や公益性は読み取れず、被害者遺族への衷心からの贖罪の気持ちも見出せない。ただひたすら自己顕示欲を満たし、結果、遺族をまたも絶望の淵に突き落としたと言うほかあるまい。自身の犯罪行為を商売の“ネタ”に、彼は多額の印税を手に入れるのだ。

「粗野な国民が多いあのアメリカにすら、犯罪者が手記で多額の報酬を得るのを防ぐ法律がある。それが『サムの息子法』です。それなのに、日本にはこうした法律がないばかりか、導入せよとの議論さえ行われたことがない」

 こう憤るのは、本誌連載コラム『変見自在』でお馴染みのジャーナリスト、高山正之氏だ。

「1976年から77年にかけ、ニューヨークで6人の女性やカップルが射殺される猟奇事件が発生しました。多くの現場に『サムの息子』という名前で手紙が残され、このシリアル・キラーは市民を恐怖のどん底に突き落とした。ほどなく、デビッド・バーコウィッツという犯人が捕まりますが、当時、ニューヨークは死刑制度が廃止されていた時期で、彼は極刑を免れ、懲役365年を言い渡された。そうした中、出版社によるバーコウィッツの手記の争奪戦が起こり、マグローヒル社が彼に25万ドルもの大金を提示したのです。それを受け、批判が巻き起こり、ニューヨーク州議会で急ごしらえで作られたのが、『サムの息子法』だった」

■元少年AにGPSを!

 ニューヨーク州の弁護士資格を持つ、大塚正民弁護士が補足する。

「ポイントは、犯罪被害者救済委員会という州の機関が版元に働きかけ、犯罪者が得る報酬を自らに寄託させるという点です。委員会はこれを5年間保管し、その間、被害者や遺族は補償を求める裁判を起こすことができ、勝訴判決が出れば、寄託金から補償金の支払いを受けられる。この法律の理念はアメリカで広く是認され、41もの州で同様の法が制定されました。その後、憲法の表現の自由に抵触しないよう改正され、実効性が担保されて現在に至っています」

 我が国でこうした法律の導入が議論すらされないこと自体が不思議と言えよう。ちなみに英国では、当局が犯罪者に対し、さらに厳格な措置を講じている。

「イギリスでは『絶歌』問題のような事態は起こりようがありません。なぜなら、内務大臣(日本では法務大臣に相当)通達により、犯罪者が自らの犯罪について著書を出版するなど、犯罪行為によって利益を上げる営為そのものが禁止されているからです」(イギリスの法律に詳しい三宅孝之・島根大学名誉教授)

 さらに日本に足りないのは、社会防衛のため、性犯罪者を監視するシステムだ。先の高山氏も慨嘆する。

「米国にはメーガン法という法律がある。これは、94年、メーガンという少女が、自宅の向かいに住む男に強姦され、殺害される悲劇が起こったことを契機に整備されたもの。この犯人が過去にも性犯罪を犯していたことが判明し、怒りの世論が沸騰した。親には我が子を守る権利があるとして、性犯罪者については、出所後も居場所が公開されて、ネット上でデータベース化され、世界中から、誰でも検索できるようにしたのです。米国では、このように性犯罪者の行動を監視することで、その衝動を抑止し、社会防衛を行う権利が認められている。元少年Aも異常な性犯罪者でした。本来なら、彼にはGPSをつけ、社会の目で監視することが、周囲のためにも、本人のためにも必要です」

「特集 匿名の暗闇から飛んできた毒の矢! 32歳『元少年A』が自己顕示した『14歳の肖像』」より

週刊新潮 2015年7月2日号 掲載

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