「アパ・マン経営」は儲からない投資になったのか

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 6月5日の日本経済新聞に、〈2棟で100億円。〉と大書された全面広告が掲載された。広告主は、投資用マンションを扱う第一リアルター。〈東京最都心・駅近に一棟マンションを求めている方に、新築をご提供いたします〉とする。件の2棟は渋谷神泉と、白金台の物件。他にも11億円強から20億円弱のマンションが7件掲載されている。

「2棟で100億円の物件も含め、すでに数十件のお問い合わせをいただいています。お客様の多くが、相続税対策としてのマンション経営に興味を持たれています」(第一リアルター)

 アパート・マンション経営――現金よりも納税額が低くて済むことから、相続税対策の方法として重宝されるだけでなく、不動産を使った“堅実”な資産運用法として人気が高い。

 が、本当に今も手堅く安全な投資なのか。

「状況はだいぶ変わってきましたね」

 と言うのは、投資用物件も数多く手がける、大手ハウスメーカー幹部だ。

「例えば、全8戸のアパート1棟に、土地代金も含め1億円投資したとしましょう。家賃を1戸あたり8万円とすると、年間の家賃収入は768万円ですから、利回りは7・68%ということになる。これが“表面利回り”です。私どもの場合、表面利回り7%を目指しています」

 だが、昨今の地価の上昇、円安による建築資材の値上がり、そして人件費の上昇……。ある不動産鑑定士がこう説明する。

「一昨年から昨年にかけ、地価は全国平均で2・62%、東京に限ると4・06%上がりました。ところが実際の取引価格は、これを上回る上昇率なのです。一方で家賃相場はほぼ横ばい傾向で、物件価格ほどの上昇率ではありません」

 すると先の例でいえば、1億円投資しても家賃8万円全6戸のアパートしか建たず、年間収入は576万円、表面利回りは5・76%に下がることになりかねない。

「アパ・マン経営の投資効果が高いのは、東京や横浜などの首都圏ですが、特に23区内では、家賃相場と物件価格の上昇率の差が大きく、表面利回りが4%なら充分です」(先のメーカー幹部)

■表面利回りに潜むワナ

 表面利回りはあくまで“表面”でしかない。実際に手にできる利益は、さまざまな経費を差し引いてからのものになる。

「私どもですと、土地の選定から始まって設計から建築までを手がけ、オーナーさんに引き渡すわけですが、入居者募集や家賃集金の代行は、グループの管理会社がやります」(同)

 オーナーとして必要な面倒な業務を、全て請け負ってくれるのが管理会社だ。だがここにも盲点がある。

「管理会社は、オーナーさんから全戸を一括して借り上げて入居者に貸すのですが、この段階で“満室保証”をする。さらにオーナー業務のほとんどを代行する分の経費として、家賃の10%をいただきます」(同)

 先の例にあてはめれば、年間の家賃収入の10%を管理会社が取るから、オーナーが手にできるのは691万2000円となり、利回りは6・91%。しかも、

「当然固定資産税を納めなければなりません。さらに給湯器など設備故障への対処はもちろん、経年劣化で屋根や外壁を修繕する場合も、オーナーさんの持ち出しになります」(同)

 管理会社によっては、入居者募集などの費用を別途請求することもある。

「また、管理会社とオーナーさんとの間で、2年ごとに家賃の見直しをします。その段階で満室ではない状態が続いていると、家賃を下げざるを得なくなる。すると表面利回りそのものが下がる、という事態も起こるのです」(同)

 もはやおいしい投資ではないのか――次号では、実情をさらに詳しく検証する。

週刊新潮 2015年6月18日号掲載

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