「バーチャル内視鏡」なら痛くて恥ずかしい「大腸内視鏡」をやらずに済む

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「悔しい。本当に悔しい」

 4月30日、舞台降板を伝える会見でステージ4の大腸がんを告白した俳優、今井雅之はこう言って、唇を噛んだ。がんはすでに他臓器に転移。会見からわずか28日後、54歳の若さで還らぬ人となった。しかし惜しむらくは、大腸がんは進行の遅いがんで、早期発見すれば、9割以上は完治できるという点だ。彼はどのような検査を受けるべきだったのか。その壮絶な死が遺した教訓とは――。

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 陸上自衛隊出身の今井は体力に自信があった。病気らしい病気をしたことがなく、健康診断も受けていなかったという。大腸がんを発見した担当医は、

「がんがここまで進行するには、10年はかかる」

 と言ったとされる。総合内科医で秋津医院院長の秋津壽男氏はこう警告する。

「今井さんはさぞ悔しかったでしょう。大腸がんをはじめ、胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどは検査で早期発見しやすく、その段階で治療すれば、9割がほぼ完治する。これらのがんで死亡するのは実にもったいない話なのです」

 では、健康診断を受けていれば、早期発見できていたのか。現在、企業や市町村で行う健診では「便潜血反応検査」が採り入れられている。これは便中に血液が混じっているか否かを調べるもの。潜血反応が陽性となれば、次のステップとして、肛門から内視鏡カメラを入れる大腸内視鏡検査を奨められる。もっとも問題は、便潜血検査が万能ではないという点だ。

「粘膜の隙間にいるおとなしいがんは出血しないので、陰性だったとしても、大腸がんではないと断言できないのです」(同)

 そこで、秋津院長はこう提言する。

「一般健診で潜血反応がない人でも、50歳になったら、一度、人間ドックで大腸内視鏡の検査を受けましょう。そこでポリープなどが見つかれば、その後は毎年、内視鏡検査を行った方がいい。また何も異常がなかった方でも、以後、3~5年に一度は内視鏡検査を受けてほしい。大腸がんの進行はとても遅いので、この頻度でも早期発見できます。今井さんの大腸がんも、こうした検査のステップを踏んでいれば、必ず早期発見できていたと思います」

■「便遺伝子検査」も登場!?

 しかしこの大腸内視鏡検査、受診率が低く、多くの罹患者が早期発見の機会をみすみす失っているという。その理由の一つは準備が大変なこと。大腸の中を綺麗にするために、大量の経口腸管洗浄剤を飲んで、10回も排便しなければならない。くわえて熟練医師でなければ、痛みがひどく、腸捻転のような激痛を伴うことも少なくないというから、気後れしてしまう。

 ちなみに女性の部位別がん死亡率で、大腸がんは10年ほど前から、トップの座を占めている。お尻にカメラを入れられるのが恥ずかしいという気持ちから、この検査が女性に敬遠されがちな面が影響していると見られる。だが、つらい痛み、羞恥心で検査を躊躇してきた人に朗報がある。

「新たな検査法として、『バーチャル大腸内視鏡』が開発されました。少量のバリウムをお尻から入れ、CT撮影を行って、結果をパソコンで立体的に3D画像化するものです。胃カメラで胃の内部を撮影したように腸の中の様子が分かり、がんの有無を判断できる画期的な新兵器です。準備も楽で、痛みも全くなく、恥ずかしさもない。まだ導入している病院は少ないが、数年前から実用化されており、保険適用で1万円ほどで受診できます」(同)

 さらには、便検査の最新版も間もなく登場しそうだ。

「『便遺伝子検査』です。大腸がんの場合、腸から剥がれたがん細胞が便に付着する。そこで、便の中にがん細胞の組織に含まれているがん遺伝子があるかないかを見極めようという検査です。これなら便潜血検査ではスルーしていた大腸がんも発見できる。まだ商品化されていないが、あと1~2年で実用化され、主流になっていくと見ています。3000円ほどで受けられるようになると思う」(同)

 近い将来、大腸がんの早期発見率を飛躍的に上げる切り札になるやもしれぬ。

「特集 健康診断では見落とす『超早期がん』発見の特別検査ガイド」より

週刊新潮 2015年6月11日号掲載

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