永島敏行「1000平方メートルの田んぼを耕す半農半俳優という選択」/「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り

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 華やかな世界に生きる「芸能人」には土いじりへの回帰が増加中だ。

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 僕の場合、土いじりの主体はお米です。

 米作りに嵌ったきっかけは、秋田県の十文字町で開かれている映画祭。たまたま、大学時代の友人がそこで稲作農家をしていた。映画祭で何度か、十文字町に通ううちに、僕も米作りをしてみようかと思うようになりました。それで、23年前、友人の協力を得て、1反、つまり約1000平米の広さの田んぼを借りたのです。当時は、親が子供になるべくなら農業を継がせない風潮があった。だから、僕みたいに、わざわざ東京から農作業をしにくる人間は珍しくて、友人からも不思議な顔をされました。

 3年間、田植えや稲刈りを経験し、仕事の合間を縫って、雑草取りのために秋田に通った。だんだんと農作業にも馴れてきたので、参加者を募って、米作り体験ツアーも始めることにしました。いまでも、毎回30人ほどの参加者が集まる。

 僕が借りている1反の田んぼからは、あきたこまちがだいたい7俵、420キロくらい生産できます。

 稲刈りは鎌を使って手作業で行い、乾燥させるのも機械を使わずに天日干し。

 お米は、15%の水分量が一番美味しいと言われていて、2週間天日干しすると、それくらいの数値になります。最後は、乾燥機で水分量を微調整し、脱穀、精米をしてから、ツアー参加者に送っています。

■圧巻の情景

 10年ほど前から、野菜作りも始めました。これも、農家をしている大学時代の別の友人から、千葉の成田市にある耕作放棄地を使わないかと誘われたのです。ただ、広さが5反もあり、とても1人では無理なので、“ちょっとだけ自給自足の会”を立ち上げ、知り合いに声を掛けて、約30人のメンバーでスタート。年会費は1万円ですけど、嫌と言うほど野菜が取れるので、すぐに元は取れました。

 5反の畑に野菜が生い茂る情景は圧巻です。

 白菜は、長さ30メートルの畝で5列作るので、700玉くらい収穫できる。トウモロコシは、70メートルの畝が5列です。本当は、1500本くらいのトウモロコシが取れるはずなのですが、ハクビシンやタヌキに食い荒らされ、半分に減ってしまいます。

 サツマイモも膨大な量を作った。放っておいても、サツマイモは成長するから手間がかかりません。ただ、収穫が地獄。蔓を鎌で刈り取らなければならず、それだけで一日仕事です。実は、掘り起こしたサツマイモはすぐに食べても美味しくない。深さ1メートルくらいの穴の中に置いて、上からムシロを被せ、1カ月くらい熟成させるのです。そうすると、でんぷん質が糖に変わって、甘いサツマイモになる。

 畑には、できるだけ農薬を使わないようにしていたので、草むしりだけでも一苦労。俳優をしながら続けるのは大変でした。

 僕は、土いじり好きが高じて、銀座や丸の内で、農家の方が農産物を直販する“青空市場マルシェ”というものも始めました。いまは、そちらの仕事が忙しくなって、自分が野菜作りをすることからは、一旦、手を引きました。

 日本では、農家の数がどんどん減っていますが、誰かが米や野菜を作らねばなりません。僕のこれからの活動は、農業を活気づけるために、都市と農村、あるいは、生産者と消費者を、“青空市場マルシェ”で繋いでいくことです。

「特集 「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り PART2」より

週刊新潮 2015年5月21日菖蒲月増大号掲載

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