城戸真亜子「ジャングルとなった20畳ベランダにマスクメロン」/「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り

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 紀元前のローマの政治家、キケロによると、自由人に最も適する職業は農業だそうである。現に、華やかな世界に生きる「芸能人」には土いじりへの回帰が増加中だ。

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 ベランダで家庭菜園を始めてから、もう10年になります。ベランダでも、想像以上に収穫できますから、畑を持てずに野菜作りを諦めてしまっている人には、是非、挑戦してもらいたいです。

 ただ、私の場合、知り合いの農家の方から、栄養満点の土や苗を分けてもらっているので、満足の行くような収穫ができているのかもしれません。

 野菜の世話をするのに、私にとって欠かせないものは、時間になると設置したチューブからプランターに注水してくれる自動灌水器(かんすいき)です。邪道のように思われるかもしれませんが、仕事が忙しかったりすると思うように水やりはできませんし、“水をやらなきゃ”という気持ちがストレスになってしまう。ストレス解消のために野菜作りを始めたのに、それでは本末転倒です。

 水やりのほかにも、野菜が成長してくれば添え木を立てたり、雑草を抜いたりと、やらなければならないことはいっぱいあります。

 うちのベランダの広さは20畳ほどですが、夏になればちょっとしたジャングルみたいになる。

 定番として作っているのは、トマトやナス、キュウリ、ピーマン、ねぎ、シソなどで、夏になれば青々と生い茂り、見た目にもきれいですし、暑さを凌ぐ日除けにもなります。

 ベランダでも、夫婦2人で一夏を越せるくらいの量は収穫できますから、野菜作りの醍醐味は十分に味わえる。

 それに、普段、口にできないものを自分の好きなように作ることもできます。家庭菜園を始めたとき、私の夢はマスクメロンを栽培することでした。ベランダにメロンがゴロゴロと転がっているところを見てみたかった。

 ですが、いざメロンを作ってみると、1つの実に栄養を集中させるために、他は間引かなければならない。

 そのときに摘み取った小さな実は、瑞々しいキュウリみたいな味がします。それを捨てずに醤油とみりんで煮ると、とても美味しいメロン煮ができる。最後まで成長させたメロンは、市販されているものに比べると小ぶりでしたが、味は正真正銘、甘いメロンでした。

■リフレッシュ

 ほかにも、珍しい野菜では、“三河島菜(みかわじまな)”というものを育てました。荒川区の伝統野菜だったのですが、昭和初期に絶滅。でも、江戸時代、参勤交代の折に伊達藩の足軽がその種を仙台に持ち帰ったらしく、“仙台芭蕉菜”と名を変えて残っていた。

 最近、三河島菜を復活させる活動が始まり、私が荒川区の観光大使をしていたこともあって、その種を区役所の職員から分けてもらいました。育てて食べてみると、小松菜と白菜を合わせたような味でした。

 画家としての創作活動は、生みの苦しみというか、ストレスから逃れられません。

 アトリエに籠りっきりになるとき、たまにベランダに出て野菜の世話をすると、気持ちがリフレッシュされ、ゆとりを持つことができます。しかも、植物の持つ生命力を目の当たりにすることで活力ももらえる。ミニトマトの断面を見ると、果肉に散らばる種が星のようで、そこに小宇宙があるかのように感じます。

 今度は、ブドウを育ててみたいと思っています。ベランダでも、作れないわけではない。そのブドウで、ワインを醸造するのが次なる夢です。

「特集 「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り PART2」より

週刊新潮 2015年5月21日菖蒲月増大号掲載

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