あの朝ドラの「モデル」になった料理研究家は誰か

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 朝ドラの料理の話、といっても、現在放送中の『まれ』のケーキの話ではない。

 先日放送が終了したNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』のモデルがニッカウヰスキーの創業者夫妻、その一つ前の『花子とアン』は村岡花子というのは誰もが知るところだろう。では、さらに一つ前、『ごちそうさん』の「め以子」のモデルについてはご存じだろうか。

 基本的に『ごちそうさん』はオリジナルのストーリーで、め以子については特定のモデルがいるとはされていない。

 しかし、実はある程度参考になった人物がいたのではないか、と指摘するのは、作家で生活史研究家の阿古真理(あこまり)さんだ。阿古さんは、「本邦初の料理研究家論」として上梓した新著『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』の中で、こう述べている。(以下は同書より)

「私が推測するところ、人生の大筋は辰巳浜子、前半生と大阪編の一部は小林カツ代のエピソードから採ったと思われる。
 辰巳浜子は戦後、婦人之友社の人に見出され、高度成長期以降にテレビで人気を得た料理研究家である。娘の辰巳芳子は、今、最も発言力がある料理研究家だ。
 辰巳浜子は、旧家に嫁いで人間関係に苦労しながら、一女二男をもうけた。息子たちは出征し、夫は満州に転勤して一時行方不明になる。疎開先で育て方を教わった野菜を東京に戻って自給しながら、自宅で料理屋を始め、夫が戻るまでの日々をつなぐ」

 なるほど、実に『ごちそうさん』に似ている。さらに「糠床」をめぐるエピソードも共通している、と阿古さんは指摘する。

「辰巳浜子のレシピ本『娘につたえる私の味』(文藝春秋、新版2008年)には、祖母から受け継いだ大切な糠床を、ひょんなことからダメにしてしまう話が書かれている。心の平静を失いかけるが、長男夫婦に分けたことを思い出し、改めて分けてもらって糠漬けづくりを再開する。この糠漬けの味が、彼女を料理研究家の道へと導くのである」

 では、小林カツ代さんとめ以子はどこが似ているのか。

「彼女は、大阪の町なかでおいしいものが大好きな家族に囲まれ、舌を肥やして育っている。しかし料理をまったく覚えず結婚して東京へ行く。彼女の料理の師匠は、電話で相談する母と市場の魚屋八百屋である」

 その後、小林さんは独創的なアイデアでスピード料理を次々と考案し、働く女性がふえた時代に圧倒的に高い支持を得ていくことになる。たしかに、こうした生い立ちも、め以子のキャラクター設定に影響を与えているように見える。

 阿古さんは、「『ごちそうさん』は、試行錯誤を続けて、時代に合わせて料理を提案した先人たちへのオマージュとも読めるのです」と語っている。 

デイリー新潮編集部

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