報道ステーション「古賀茂明」暴走でその一端が白日の下に! 大メディアを鷲掴み「安倍官邸」剛柔のカギ爪

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 狐(きつね)と狸(たぬき)の化かし合いよろしく、権力とメディアは日々さまざまな「駆け引き」を行っている。それはあくまで裏舞台での話で表に出ることはないが、この度、『報道ステーション』でその一端が白日の下に晒された。以下は、「安倍官邸」のメディア懐柔策を巡る考察。

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 昇った朝陽は必ず沈むし、目映(まばゆ)い桜も咲き誇り続けることはできない。諸行無常はこの世の摂理。栄華を極めた権力も、平家の例を持ち出すまでもなく、驕(おご)り高ぶり、良からぬ事態に陥るものと相場は決まっている。さて、長期政権が視野に入ってきた安倍官邸に慢心はありはしないか……。

 3月27日夜、1週間の仕事を終え、身体にこびりついた疲労を払い落そうと寛(くつろ)ぎながらテレビを観ていた人の中には、思わず腰を浮かせた方もいたに違いない。テレビ朝日の看板番組『報道ステーション』で、コメンテーターの元経産省キャリア官僚、古賀茂明氏(59)が突如こんな暴露を始めたのだ。

「テレビ朝日の早河(洋)会長とか、古舘プロの佐藤(孝)会長のご意向で、私はこれ(今日の出演)が最後ということなんですが、菅(義偉)官房長官をはじめ、官邸の皆さんにはもの凄いバッシングを受けてきました」

「(報ステの)プロデューサーが今度更迭される」

 要は、〈I am not ABE〉と訴えるなど「反権力」志向の古賀氏自身と、彼と親しかった報ステのプロデューサーが、官邸の圧力を受けたテレ朝上層部等の判断で「クビ」になったと明かしたのである。これに対して古舘伊知郎キャスター(60)は、

「今のお話は、私としては承服できません」

「更迭ではないと思いますよ」

 と、反論。こうして、古賀・古舘両氏は生放送中に「公開内ゲバ」を繰り広げたのである。その背景を、

「問題のプロデューサーは、脱原発報道に力を入れるなど、反権力色が強い報ステを象徴する人物でした」

 と、あるテレ朝関係者が説明する。

「このプロデューサーが古賀さんを番組に引っ張ってきたんですが、政府との摩擦を忌避する傾向のあるテレ朝の現在の上層部に睨まれ、2人とも3月で番組を去ることになった。これが古賀さん側の言い分です」

 確かに菅官房長官は、報ステで古賀氏が安倍政権のイスラム国(ISIL)対応に異を唱えると、名指しこそしないものの、

「先日、この運動(反体制運動)をやっている方がテレビに出て、ISILの事件で政府を批判していましたが、全く事実と異なることを、堂々と延々と発言していました」(2月24日の記者会見にて)

 こう、古賀氏を念頭に置いたと思われる発言をしている。この発言に、テレ朝側は動揺したのだという。

「テレ朝のドンと言われる早河会長は、出版社・幻冬舎の見城(徹)社長とともに安倍(晋三)総理と食事をしていますし、テレ朝の社長に吉田(慎一)さんが就任した時も、彼を伴い、やはり安倍総理と会食している。つまり、安倍官邸との距離を縮めようとしている早河会長にとっては、安倍政権批判を『売り』にしている今の報ステの報道が煙たい。そこで古舘キャスターの降板もチラつかせつつ、『うるさ型』のプロデューサーと古賀さんの交代を古舘サイドに飲ませたと言われています」(前出関係者)

 古賀氏側も、先の報ステ放送日まで拱手していたわけではなく、

「2月、テレ朝が官邸に屈したという内容の『古賀氏寄り』の記事がある週刊誌に掲載されましたが、この記事には、古賀さんや彼と懇意のフリージャーナリストが『関与』したと見られています」(同)

 また、問題の報ステ放送2日後の3月29日、三重県の松阪市において開催された講演で古賀氏は、

「報ステのテロップやナレーションを、テレ朝の政治部も経済部も必死にチェックしている。番組の直前まで、こんなことしたら安倍さんに怒られる、菅さんに怒られるって」

 ともぶちまけている。一方の菅氏も譲らず、

「(古賀氏の言う菅氏によるバッシングは)全く事実無根。公共の電波を使った報道として極めて不適切」(3月30日の記者会見にて)

 と、テレ朝側に圧力を掛けたことを完全否定したのだった。

■「メディアに敵なし」

 無論、その日のニュースとは何ら関係のない「テレ朝・古舘・官邸」批判を展開し、暴走した古賀氏の行動は大人げないとの謗(そし)りを免(まぬが)れないだろう。しかし、菅氏が圧力の存在をいくら打ち消そうとしたところで説得力を持たないほど、安倍官邸が「メディア操縦」を行っているのもまた事実なのだ。直近では、3月27日でNHK『ニュースウオッチ9』を降板した大越健介キャスターの一件が挙げられるだろう。

「脱原発や反米の姿勢が目に付き、安倍官邸に批判的と思われていた大越さんは、1月に『週刊新潮』で降板報道が出た直後、親しい友人に『うち(NHK)は忖度(そんたく)政治だから』と漏らしています。忖度する対象は安倍総理と、総理の思想に共鳴している籾井(勝人)会長です」(NHK職員)

 このように、メディアの人事にも影響力を持っているとされる安倍官邸の「増長」ぶりは他にも見られ、さる官邸スタッフは、

「3月19日の晩、安倍総理は読売新聞の政治部軍団と2時間半にわたって会食しているんですが……」

 と、耳打ちする。

「その場には今井(尚哉)秘書官が同席。読売側は彼の番記者や元番記者で、総理は顔も分からないようなメンバーでした。言ってみれば、今井さんが自分の権勢を総理に見てもらうために記者を呼び集めた飲み会ですね」

 俺が一声掛ければ記者なんてホイホイ駆け付けてくる――。総理を最も身近で支える秘書官がメディアを舐(な)めている様子が透けて見えるが、それもむべなるかなで、全国紙の政治部デスクはこう証言する。

「総理の側近議員は最近、こう言い放っていました。『第1次政権時代、安倍さんは朝日新聞にかなり叩かれたが、去年の(慰安婦誤報)問題で、朝日との闘いは決着した。安倍さんも菅さんも、もはやメディアに敵なしと思っている』。実際、安倍官邸による、リベラルな朝日、毎日新聞の干し方は徹底していて、例えば政治報道の花形の一つである内閣改造(2014年9月)でも両紙は情報がなかなか取れず、四苦八苦していました」

 また昨年11月、衆院の解散直前に安倍総理がTBSの『NEWS23』に出演した際には、

「アベノミクスに関する街頭インタビューが紹介されたんですが、批判的な意見が多いと感じた安倍総理が、『これ、全然(本当の街の)声が反映されていません』と苛立つ場面がありました。この放送の2日後、自民党の萩生田光一総裁特別補佐らが在京テレビキー局に、〈選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い〉と題した文書を送付し、メディアを『牽制』しています」(同)

■「恭順」の意

 こうした安倍官邸のメディア対応が「功を奏した」と言うべきなのか、メディア側も政府に気を遣っている節が窺える。

 あるテレビ局の政治部記者が声を潜める。

「本来、街頭インタビューは賛否両論のバランスを取って放送すべきなんでしょうが、例えば靖国参拝について、うちは若干、賛成意見が目立つように『手心』を加えたりしています。当然、政権への配慮です。やっぱり、官邸に睨まれたくはないですからね」

 さらには、こんなケースも見受けられる。

「安倍総理と日枝久会長がゴルフをする仲であることから分かるように、フジテレビは現政権と良好な関係にあります。これを象徴する話として、昨年4月、安倍総理の弟である岸信夫代議士の息子と、総理の信頼が篤(あつ)い加藤勝信官房副長官の娘が、揃ってフジに入社しています」(民放記者)

 ちなみに、

「岸さんは昨年5月の『安倍晋太郎氏を偲び安倍晋三総理と語る会』で、『息子にだけは取材されたくない』なんて、笑いながらおどけていました。政府与党とメディアの間の、緊張感のなさを物語っています」(同)

 フジにしてみれば、まさかとは思うが「人事」で政府サイドに「恭順」の意を示したつもりだったりするのかもしれない。上智大学文学部新聞学科の田島泰彦教授は、メディアの現状に危機感を覚えるとしてこう語る。

「安倍総理が総理に返り咲いて2年3カ月の間にメディアの人と会食した回数は、3年3カ月続いた民主党政権時代の総理3人の総計の既に4倍に達しています。加えて15年度の政府広報の予算案は83億円で、民主党の野田政権時代と比べると2倍以上に膨らんでいる。こうした影響を受けているのか、大手メディアは今、長いものに巻かれている印象が拭えません」

 もちろん、ジャーナリストの徳岡孝夫氏が、

「小渕恵三元総理の『ブッチホン』が有名なように、権力者がメディアを懐柔しに掛かるのは政治手法の一つで、田中角栄は記者と麻雀を打ってわざと負けたりしていたほどです。総理とメディアの会食だって、何も悪いことじゃない。それで抱き込まれるような弱々しい記者じゃダメですけどね。暖簾をくぐる前と後でメディア側の気持ちが変わらないことが大事なんです」

 こう説く通り、権力とメディアの関係は多分に記者の矜恃(きょうじ)の問題と言えよう。果たして、「安倍官邸vs大メディア」の行く末や如何に――。政治評論家の浅川博忠氏は、

「安倍政権は相変わらず50%前後の高支持率を維持している。これが自信となり、安倍さんはメディアに強気の姿勢を取っています」

 と、分析した上で、こう解説する。

「長期政権を狙うにはメディアコントロールは欠かせませんし、メディアも取材のし易さを考えると政権を慮(おもんぱか)った報道をせざるを得ない。しかし、森喜朗さんが総理時代、番記者に無言を貫き、連日紙面に総理コメントを『……』と書かれて支持率が低下したように、メディアをあまりに締め付けると、政権失速の端緒となりかねません」

 剛柔とりまぜた手法で大メディアを鷲掴みにする安倍官邸。だが、そのカギ爪で真の長期政権を掻き寄せられるか否かの見通しは、まだ「森喜朗(しんきろう)」の如く、おぼろげなものと言えそうだ。

週刊新潮 2015年4月9日号掲載

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