サントリーがアサヒを訴えた“ノンアル”戦争の行方

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 ようやく春めいて、花見の宴も差し迫った今日この頃、頻繁にクルマを運転する酒好きの諸兄にとっては、悩ましい季節の到来である。できることなら桜の木の下で「乾杯!」と声を張り上げたいのが、彼らの偽らざる心境に違いない。そんな酒好きドライバーの不埒な要求にも応えるべく誕生したのが、いわゆるノンアルコールビールである。

 しかし、その特許を巡って、今年1月に同分野で現在シェア1位のサントリーと2位のアサヒとの間に訴訟が勃発、3月10日から前代未聞の裁判が始まっている。サントリー側がアサヒの『ドライゼロ』に対し、自社が持つ特許権を侵害したとして、製造・販売の差し止めを求めたのだ。

 ちなみにノンアルコールビールとは、酒税法上の規定外であるアルコール度数1%未満のビールテイスト飲料のこと。道路交通法の改正によって飲酒運転に対する罰則が強化された2002年に各社が市場に参入し、09年にキリンビールが業界に先駆けてアルコール度数0%の『キリンフリー』を発売したのを機に、急激に需要が拡大した。

 その好調ぶりに刺激されてか、サントリーは10年8月、アルコール度数ゼロに加えて、カロリーも糖質もゼロの画期的な新商品『オールフリー』(現在までに5度リニューアル)を発売し、先行する『キリンフリー』の売上げをアッという間に抜き去った。以後4年連続でシェア1位を堅持、昨年は720万ケース(ケース大瓶20本換算)を販売し、1650万ケース規模のノンアルコールビール市場の約4割を占める。対する12年2月に発売され、その後3度の改良が加えられたアサヒ『ドライゼロ』は630万ケースで、トップの『オールフリー』を猛追中だ。

■業界の不仲

「実はサントリーは『オールフリー』発売から1年3カ月後の11年11月、味の決め手となるエキス分、酸味を示すph、糖質の3つの数値を一定範囲に設定した“ノンアルコールのビールテイスト飲料”の特許を出願し、13年10月11日に取得していたのです」

 と語るのは、さる業界関係者。つまり今回の提訴は、サントリーが取得したこの特許に示されている3つの成分の数値の範囲内に、いずれもアサヒの『ドライゼロ』は該当している、だから製造・販売を止めろ、ということである。

 原告側であるサントリーHD広報部の言い分は、

「当社では、これまで知的財産保護の観点から特許出願を行なってきました。本件についても研究開発で得られた発明であり、特許を出願し取得するに至ったということです。アサヒさんとはこれまで誠実に交渉を行なってきましたが、ご理解いただくことができませんでした。残念です」

 かたや被告側のアサヒグループHD広報は、

「サントリーさんの特許はエキス分、ph及び糖質量から特定されたものですが、その3つの成分の数値の範囲はいずれも既存製品から容易に発明できます。そこには特許としての進歩性が不明確で、我々は特許そのものが無効と考えています。必要に応じて特許無効審判を請求するつもりです」

 確かに数値の範囲をもって、なぜサントリーが特許を取得できたかは疑問だが、とはいえ特許自体が既に取得されているのも事実。互いに一歩も譲らぬ両社のバトルについて、企業経営に詳しいジャーナリストの小宮和行氏が嘆く。

「頭打ちとはいえ、いまだ4億ケース以上といわれる本物のビール市場に較べれば、ノンアルコールビールの市場は微々たる存在です。グローバル化の時代、海外に販路が広がる可能性もあるわけですから、あのトヨタが特許を開放したように、ともに成長を目指して協力しあってもいいと思うのですが、この業界の不仲ぶりは相変わらずですね」

 どうにも“酔えない”争いなのである。

週刊新潮 2015年3月26日花見月増大号掲載

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