【渾身レポート】日本の「技術の現場」は巨大で精密で夢がある!――成毛眞(HONZ代表・元日本マイクロソフト社長)

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 日本の科学技術力は、いかに誇るべき水準か――。技術の現場に足を運んできた本誌連載「逆張りの思考」の筆者、成毛眞氏は、その巨大さ、繊細さに驚嘆したという。そこに日本が生き残る道を見出した渾身のレポートは、我々が自信を持つための処方箋でもある。

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 本屋巡りをしていると、平台の様子が以前と変わっている。山と積まれていた嫌韓・反中の本が店頭から奥の方へ移動し始めたのだ。あれほど盛り上がっていた韓流ドラマも地上波からは消えつつあるようだ。まさに、仏頂面で日本に対峙する中国や、従軍慰安婦問題一辺倒の韓国と対話をするために、わざわざ日本が同じ土俵に立つ必要はないと人々は気付き始めたのかもしれない。事実、日本には隣人たちにはないものがあり、それにより圧倒的優位に立っている。

 日本にはあって、隣人たちにはないもの。それは基礎科学と技術基盤だ。最近は韓国にサムスン、中国にハイアール、台湾にホンハイなど、有名電機メーカーが誕生し、その名をグローバルにとどろかせてはいるが、製品を支える根幹の部分は彼らが独自に開発したものではない。半導体製造装置メーカーの世界トップ10には、中国や韓国のメーカーは1社も入っていない。これは、不十分な基礎工事の上に楼閣を築いているようなものだ。

 日本はこれまでに優れた科学技術を生み出してきた。昨年も青色LEDの開発によって、3人の研究者がノーベル物理学賞を受賞して話題になったが、物理学、化学、医学生理学の自然科学系分野における日本人ノーベル賞受賞者は、これまでに19名(受賞時に米国籍取得者を含む)にのぼる。片や中国はゼロ、韓国もゼロ、台湾は1名である。

 19名の日本人受賞者のうち、江崎玲於奈さん(1973年物理学賞)、田中耕一さん(2002年化学賞)、中村修二さん(14年物理学賞)はそれぞれ、ソニー、島津製作所、日亜化学という民間企業在籍時の功績が表彰の理由になっていることが、大いに注目に値する。この事実は、日本には大学だけでなく、民間企業にも、世界をリードする科学技術を育てる力と心意気があることを示しているからだ。

 私はマイクロソフトという外資系IT企業に勤務していたときから、取引先を通じて日本企業の持つ底力をありありと感じていた。しかしながら彼らは、それは先輩たちの努力の積み重ねでつくり上げてきたものであり、また、一般には理解されないからと、時代におもねることなくひたすら地道に仕事をしているように見えた。マイクロソフトを退社し、自分の時間を十分に持てるようになった私は、そういった企業の現場をこの目で見てみたいと考えていた。

 そこに声をかけてくれたのが「週刊東洋経済」で、世界に誇れる日本の技術の現場を見に行くという連載企画が誕生した。北は苫小牧から南は長崎まで、さらにはフランスとスイスの国境にまで足を運んだ。そして2月、その連載に大幅に加筆修正したものを新潮社から『メガ!―巨大技術の現場へ、ゴー―』というタイトルで刊行した。

 今振り返っても、取材は驚きの連続だった。興味本位で訪れた技術の現場はどこも、私が本やネットで予習していたよりも遥かに巨大、かつ繊細であったからだ。大きなものに触れると普段の自分の生活範囲の狭さを感じ、細やかなものに触れると、普段どれだけ多くの物を見過ごしているかを考えさせられた。そして、何を見ても何を説明されても、ただただ圧倒されるばかりで、取材現場を辞去するころには「なぜ私はこういった心躍る現場での仕事を選ばなかったのだろう」と、マイクロソフト時代がそれなりに面白かったにもかかわらず、後悔の念に苛(さいな)まれるほどだった。

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