「火星移住計画」候補者100人に残った日本人は在メキシコ「女性シェフ」

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 地球から火星の最短距離は、約5600万キロ。10年後、人類は“大きな一歩”を踏み出すことになりそうだ。2025年からの火星移住計画を進めるオランダの民間非営利団体『マーズワン財団』が、最初の移住候補者を100人に絞り込んだ結果、日本人で唯一残ったのがメキシコ在住の島袋悦子さん(50)だった。一体、彼女は何者なのか。

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『マーズワン財団』のホームページで、島袋さんはこう紹介されている。

〈彼女は、火星で最初のすしバーを開くために、行こうとしている〉

 沖縄県那覇市出身の彼女が辿ってきた50年は、実にユニークだ。明治大学文学部に在学中、米国カンザス州のマクファーソン大学へ留学。そこで文系から理系へ“転向”してコンピューターについて学び、システムアナリストの資格を取得したという。

 彼女のブログによれば、その後20年、IT関連の仕事に従事したが、この間に休暇を利用して世界一周のバックパック旅行に出ている。その旅に同行したジャーナリストのメアリー・キングさんによれば、

「私が知り合った時、エツコは欧米の金融機関でITコンサルタントとして働いていました。01年、彼女と一緒に15カ月かけて徒歩で日本を縦断したのです。その4年後、彼女は210キロを走るサハラ砂漠マラソンにも参加しています」

 頭脳明晰で、抜群の行動力を持つ島袋さんは2010年、突然、職を辞して石川県調理師専門学校の門を叩いたのだった。

■宇宙でも広めて

「“せっかくいい会社に入ったのに、どうして料理をしたくなったの”と聞いたのを覚えています」

 こう語るのは専門学校の講師で、『割烹みや川』の宮川務社長だ。

「彼女は“日本料理を世界に広めるという私の夢を叶えたい。生活に困らないくらいの蓄えはありますから、大丈夫です”と笑っていました。非常に優秀で学園祭の料理コンクールで最優秀賞を獲り、就職先のアゼルバイジャンにあるホテルの日本料理レストランも、自分で探してきたのです」

 その1年後、アゼルバイジャンから約1万2580キロ離れたメキシコ・グアナフアト州レオンにある和食レストラン『Eiki』に、彼女の姿があった。店の広報スタッフ・山崎恵美さんが言うには、

「3年前から、悦子さんはうちの店で働いています。スタッフはほとんどメキシコ人で、和食の味がわかる人は多くない。市内3店舗に1人ずつ日本人スタッフを置いて、味のチェックや管理をしている。悦子さんもその1人。もちろん、彼女は料理も作っています」

『Eiki』では、焼きそばや焼き飯などを100ペソ(約800円)ほどで提供している。

「悦子さんは独身で“社宅”で生活していますが、昨年11月から今年の3月まではロングバケーション。南米へ行くと言っていました」(同)

 最後に、彼女の恩師がこう語る。

「火星で“すしバー”というのは、夢があっていい。日本食が世界に広がったように、宇宙でも広めてほしいですね」(宮川社長)

 火星の地を踏むことになれば、その時、彼女は60歳。果たして、夢は叶うのか。

「ワイド特集 狭き門より入れ」より

週刊新潮 2015年3月5日号掲載

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