朝鮮労働党の機関紙を軍事オタク紙に変貌させた「金正恩」

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 北朝鮮の「労働新聞」といえば、朝鮮労働党の機関紙である。普段は党の施政方針や金正恩第一書記の動向などを伝えるお堅い新聞だが、近頃、様子がだいぶ違ってきた。戦闘機や軍艦の写真が次々に掲載され、まるで“軍事オタク”が好むような紙面作りになっているのだという。

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「従来は労働新聞に最新式の兵器の写真が掲載されることはありませんでした」

 と言うのは、北朝鮮情勢に詳しいジャーナリストの李策氏である。

「たとえば、かつて金正日総書記の軍の視察を報じる時は、具体的な情報は極力隠す傾向にありました。どの基地のどの部隊がどのような演習を行なったかなどを明かすことはまずありませんでした。ましてや兵器に関する情報はおろか、写真もほとんど掲載しなかった。諸外国の軍事関係者は、北朝鮮で行なわれる軍事パレードでわずかに映る兵器を見て、推察するしかありませんでした」

 ところが最近、紙面が様変わりしている。

「今年1月24日付の紙面中央には軍幹部に囲まれた金正恩第一書記がポケットに手を突っ込んだまま、破顔一笑する写真を掲載しています。自分よりはるかに年上の軍幹部を前に、いかに余裕を持って指示しているかをアピールしている。この紙面で驚くべきは、北朝鮮の誇る主力戦闘機ミグ29の機体を色々な角度から捉えた写真が計9枚も掲載されていることです。しかも、1枚は正恩の後ろ姿の写真です。まるで主役が戦闘機であるかのようです。このように金正恩が脇役に見えるような編集方針は、以前の北では絶対にありえなかった」(同)

■最高機密だが

 デイリーNKジャパンの高英起編集長も労働新聞の変化に驚く。

「紙面はビジュアル化し、写真のクオリティーも高くなり、欧米のメディアと比べても遜色ないものです。臨場感溢れる戦闘機の飛行風景など、まるで海外のミリタリー雑誌のようです」

 いったい北に何が起きているのだろうか。

「金正恩はスイス留学から帰国後、短期間だが軍務に就いたことがある。彼の数少ない実績の中で、軍歴が最も堅固なバックボーンですから、並いる軍人たちに負けないよう盛んに戦闘機の前に立ったりしているのではないでしょうか」

 とはコリア・レポートの辺真一編集長だが、早大アジア研究所の惠谷治招聘研究員はこう見る。

「最近、北朝鮮はよくもこれほど堂々と最新兵器を公開するものだと驚きを禁じ得ません。軍事に関する情報は最高機密であるはずなのに、まるで他国に自慢したいかのようです。紙面の笑顔を見るかぎり金正恩は相当な兵器マニアではないか、と思えてしまいます」

 兵器マニア、軍事オタクではないか、と見るのは前出の李氏も同じ。

「労働新聞に戦闘機などの数々の写真を掲載したのは、全て金正恩の指示した結果だと思います。実は正恩は戦闘機が大好きなのです。以前、戦闘機の操縦席に座る姿が報じられたこともありました。ミグの写真がたくさん掲載されたのも、まさに彼が飛行機好きで、ミリタリーマニアであることが露呈したのでしょう」

 軍事オタクの最高指導者。ちょっと笑えるような、やっぱり怖いような……。

「ワイド特集 さよならの向う側」より

週刊新潮 2015年2月26日号掲載

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