燃料電池車「特許」を無料開放する「トヨタ」大実験

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 英断というべきか、したたかなる戦略というべきか――1月6日にトヨタ自動車が発表した“燃料電池関連特許の実施権無償提供”は、各方面に衝撃を与えた。

「トヨタが単独で保有する燃料電池関連特許約5680件のうち、実際に水素から電気を生む“燃料電池スタック”、高圧水素タンク、燃料電池システム制御という燃料電池自動車(FCV)開発・生産の根幹となる特許約5610件は、2020年末までの無償提供。水素供給・製造などの水素ステーション関連の特許約70件は無期限に無償となります」(経済部記者)

 トヨタは、

「当社は、特許についてはオープンがポリシーで、第三者からの申し込みに対しては、契約を結んで有償で実施権を提供してきました。ただFCVについては、とにかく普及が優先。そこで、FCVの開発・導入を進める自動車メーカーや、水素ステーション整備を進めるエネルギー会社などと協調していくために、このような形をとりました」

 と説明するが、世界初の量産型FCV“MIRAI”の販売を昨年12月15日に開始したばかり、というタイミングだけに、

「業界内外からは、これを賞賛する一方で、戸惑いの声も聞こえた」(先の記者)

 戸惑いとは、“トヨタがこれで、FCVの覇権を握ろうとするのでは”という危惧である。だが、

「トヨタは目先の利益ではなく、まさに“未来”を見据えている」

 と言うのは、自動車評論家の国沢光宏氏だ。

「“MIRAI”の燃料電池スタックの最高出力は114キロワット。これだけで一般家庭20~30世帯の電力をまかなうことができます。一方で経産省が昨年“水素・燃料電池戦略ロードマップ”を策定するなど、“水素社会”の実現は国策レベル。トヨタは目先のFCVの普及だけでなく、数十年後の日本社会を考えているのでしょう」

 トヨタの壮大な深謀遠慮が見え隠れしているのだ。

週刊新潮 2015年1月22日号掲載

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